Case事例紹介

地域に根づいた事業を、
その会社らしい形で次へつなぐM&A
株式会社エストリンクス 安藤 悟様
譲渡企業 

ソニックシステム株式会社

代表者名: 杉山 智彦様

事業内容: 楽器、音響機器のレンタル・販売業

譲受企業 

株式会社エストリンクス

代表者名: 安藤 悟様

事業内容: ウェブマーケティング業

M&Aの進行スケジュール

初回面談日: 2022/5/27

コンサルティング契約日: 2024/6/28

TOP面談: 2025/1/20

最終契約: 2025/7/31

ウェブマーケティングを中心に事業を展開してきた株式会社エストリンクス(以下、エストリンクス)。このたび静銀経営コンサルティング(以下、SMC)のサポートにより、浜松を拠点に楽器販売や音響機材レンタル、貸スタジオ、イベント設営などを手がけるソニックシステム株式会社(以下、ソニックシステム)を譲り受けるM&Aが成立しました。今回は、エストリンクスの安藤社長に、M&Aに至った経緯や、譲受後の取り組み、今後の展望について伺いました。

リアル事業への関心をきっかけに、事業承継の決断へ。

なぜ今回のM&Aを決断されたのでしょうか?

安藤様(以下敬称略): もともと、M&Aによって事業を広げよう、会社の規模を大きくしようという考えがあったわけではありません。今回も、こちらから「こういう会社を買いたい」と銀行に相談していたのではなく、銀行からお話をいただいたのがきっかけでした。

一方で、会社としてはこの二、三年、「これからはリアルの事業も必要になる」と考えていました。本業はウェブマーケティングですが、AIの普及によって業界そのものが大きく変わっていく可能性がある。その中で、以前からリアル事業にも領域を広げたいという思いがありました。ソニックシステムは音響や楽器、イベントに関わる事業を手がけていますから、「リアルイベントは一つの可能性かもしれない」と感じたんです。

さらに、会社名が開示されたとき、自分が何度も利用したことのある楽器店であり、学生時代によく通っていた浜松のライブハウスにも関わっている会社だと分かりました。大学時代は磐田でバンドをやっていて、演奏するにもライブを見るにも浜松へ行くことが多かったので、個人的にも思い入れがありました。

そして、今回が事業承継の案件だと聞いたことも大きかったです。継ぎ手がなく事業がなくなってしまう、あるいはまったく関係のないところに引き継がれるのであれば、「それなら自分たちが」という気持ちが生まれました。M&Aで事業を拡大したいというよりも、事業承継を通じてこれまでのものをつないでいく。そのことに気持ちが動いたのだと思います。

M&A後、どのように関係づくりを進めていますか?

安藤: 大前提として、ソニックシステムの歴史や文化は重んじていきたいです。M&A後、すぐに経営のやり方を大きく変えたり、細かなところまで口を出したりすることはしていません。まず取り組んだのは、人の部分です。現在はエストリンクスから社員を音響スタッフとして出向させていますし、今後は楽器販売や労務・総務の領域にも人を入れていく予定です。

ソニックシステムにとって大きな課題の一つは、人材だと考えています。音響の現場は体力的にも負担があり、なり手も決して多くありません。一方で、エストリンクスにはWebマーケティング以外の領域でも力を発揮できる人材がいます。そこをうまくつなぐことで、双方にとって良い形をつくれるのではないかと思っています。

次に取り組みたいのが労務面です。出張や直行直帰が多い仕事ですから、勤怠管理をはじめ、実際の働き方に合った環境へ少しずつ整えていきたい。そのうえで、エストリンクスがこれまで培ってきたWebマーケティングの知見を生かし、Webサイトのリニューアルや集客面の強化にも取り組んでいく考えです。

ただ、何をするにも順番は大切だと思っています。いきなり「買収した会社だから変えます」というのではなく、まず人を送り、現場を支え、「以前より少し働きやすくなった」と感じてもらうところから始めたい。その積み重ねの中で関係を築きながら、必要な変化を一緒につくっていくことが大切だと考えています。

私自身も現場の皆さんと話したりしながら、少しずつコミュニケーションを重ねています。まずは会社の文化を理解し、そのうえで次の取り組みにつなげていきたいと思っています。

両社の強みを、どう活かしていくことをお考えですか?

安藤: 特に伸ばしていきたいと考えているのが、楽器の買取事業です。ソニックシステムは浜松で長く楽器店を営み、地域での知名度や、楽器を扱うノウハウを蓄積しています。そこに、私たちが培ってきたWebマーケティングの知見を組み合わせることで、店頭だけでなく、より広いエリアから買取や販売につなげていけるのではないかと考えています。

ソニックシステムではすでに店頭で買取を行っていますが、Webを活用して全国から楽器を仕入れる仕組みを強化できれば、両社の強みを生かした展開ができると思っています。中古楽器は一点物ですから、ECとの相性も良いはずです。現在も店頭とオンラインの両方で販売していますが、人手の問題から、すべての商品を十分に出品できているわけではありません。出品体制を整え、商品点数を増やすことができれば、全国のお客様に届けられる可能性も広がります。
私たちの強みはオンラインにあり、ソニックシステムの強みはリアルな店舗や現場にある。それぞれ異なる強みを持っているからこそ、掛け合わせる余地が大きいと感じています。今後は「ウェブ」と「リアル」という二つの強みを軸に、その間をつなぐような新しい事業も考えていければと思っています。

相手を理解し、その会社らしさを次へつなぐ。

M&Aを経験して、特に大切だと感じたことは何ですか?

安藤: 今回あらためて感じたのは、M&Aでは事業や数字だけでなく、人との関係づくりが非常に重要だということです。M&A後は、当然さまざまな受け止め方があります。こちらとしても、すぐに経営を変えるのではなく、まず相手を知り、関係をつくることに時間をかけてきました。

今回の経験を踏まえると、今後またM&Aに取り組む機会があれば、事前に会社の実情を把握することや、役員・社員の皆さんとのコミュニケーションは、今回以上に丁寧に行いたいと思います。財務や法務だけでなく、会社が実際にどう動いているのか、現場にはどのような課題があるのか。そうした実情にも事前に目を向け、相手の会社への理解を深めておくことが大切だと感じました。

私自身、ソニックシステムのことを、利用者としては以前から知っていましたが、実際にM&Aをしてみると、「利用者として知っていること」と「会社として知っていること」はまったく違うとあらためて分かりました。当然、M&Aのお話をきっかけに出会う会社さんだとするなら、会社同士のギャップはさらに大きくなると思います。これは、今回実際に経験したからこそ得られた気づきの一つです。

今回は、M&A後に時間をかけながら関係を築いていく進め方を取っていますが、今後別のM&Aに取り組むのであれば、いつ、何を行い、どのような形で事業や組織をつないでいくのかについても、事前にもう少し整理しておきたいと思います。相手をより深く知り、将来を一緒に考えるための準備をしておくことが、M&Aをより良い形で進めていくうえで大切なのだと感じています。

M&Aを通じた事業承継について、どのように捉えていますか?

安藤: 今回M&Aを経験して、事業承継には大きな社会的意義があるということに気づきました。M&Aを発表した際、特にライブハウスについて「続くんですね」「引き継いでくれてありがとう」といった声を直接いただきました。そのときに、「この場所が続くこと自体を喜んでくれる人がいるんだ」と、あらためて実感しました。ウェブマーケティングの仕事では、お客様を支援する黒子の立場であることが多く、その先にいる方々の反応を直接感じる機会はそれほど多くありません。今回は、M&Aによってその会社やお店を次につないでいくことができ、それを直接喜んでもらえたことは、とても印象に残っています。後継者がいないことで、会社や店を畳まざるを得ないケースは今後も増えていくと思います。そうした事業を次の世代につないでいくことは、地域にとっても大切なことなのだと感じています。

もう一つ、今回のM&Aを通して考えるようになったのが、「その会社らしい形」で続いていくことの意味です。全国規模の企業に買収され、看板や運営方法が変わることも一つの選択肢ですが、それによって地域固有の文化や個性が薄れてしまうこともあると思います。ソニックシステムは、浜松で長く事業を続けてきた会社です。これまで積み重ねてきた文化や地域との関係を残しながら、維持・発展させていく。そうしたM&Aには大きな意味があると思っています。私たちとしても、自分たちの色に塗り替えるのではなく、まずその会社の文化を理解することを大切にしたい。これまで築いてきたものを尊重しながら、その先へつないでいきたいと考えています。

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