Case事例紹介

真鶴魚市場の存続と社員の雇用を守るため
M&Aによる事業承継を決断
譲渡企業 

有限会社かねか水産

代表者名: 加藤義明様

事業内容: 鮮魚、塩干物加工品の販売及び不動産賃貸業

譲受企業 

株式会社山佐食品

代表者名: 九嶋広一様

事業内容: 水産物の切身加工

M&Aの進行スケジュール

初回面談日: 2020/8/20

コンサルティング契約日: 2021/6/11

TOP面談: 2023/4/4

最終契約: 2023/10/2

神奈川県・湯河原町の有限会社かねか水産(以下、かねか水産)は、2023年10月、静岡県焼津市で水産加工業を営む株式会社山佐食品(以下、山佐食品)に一部事業の譲渡を行いました。1969 (昭和44)年創業のかねか水産は、真鶴魚市場と小田原魚市場の買参権を持ち、鮮魚仲買卸と干物の加工製造・販売を行ってきました。真鶴魚市場の鮮魚取引の約8割を担っていましたが、後継者問題を抱えており、地元の魚市場と自社の従業員の雇用を守りたいという強い思いからM &Aによる事業承継を決意。静銀経営コンサルティング(以下、SMC)から提案されたのは、「食に特化した事業承継プラットフォーム」を展開するまん福ホールディングス株式会社(以下、まん福HD)のグループ会社である山佐食品でした。譲渡成立後の11月、旧経営陣の一人、森谷政江さん(以下、森谷)にお話を伺いました。

地元の魚市場と従業員を守りたい

かねか水産様の事業について概要を教えていただけますか?

森谷: 鮮魚仲買商と水産加工業を営んできました。市場で競りをして鮮魚を購入し、各地の魚市場や鮮魚店に卸しています。それから、アジ・エボダイ・カマス・サバなどを使った干物の加工製造・販売ですね。地元の学校給食への提供も行ってきました。事業の80 %を鮮魚、20 %を加工が占めています。

事業を残していくためにM &Aという選択をされたのには、 どういった経緯があったのでしようか?

森谷: 6年前に亡くなった父が「子々孫々まで続けてほしい」と言っていたんです。かねか水産は私が20歳のときに父と母、私の3人で設立した会社で、その後、弟も加わって家族で経営してきました。父から会社を引き継いで、弟(前社長・加藤義明さん)が鮮魚の目利きや仕入れの先頭に立ち、総務・経理などの業務は私が一手に担ってきました。自分も70 歳を過ぎ、自分たちが元気なうちに事業を引き継ぎたいと考えるようになりましたが、親族には適任者がいないこともあり、事業を残していくにはM&Aしかないと考えたんです。責任を持って事業を引き渡したい、決断するのは今じゃなきゃできないと思いました。

では、事業承継を考えたときに、すぐにM&Aという選択になったんですね。

森谷: 会社に借金もなかったので、やめてしまうことは簡単にできたんです。でも、真鶴魚市場と社員を守るためには、うちがやめてしまうわけにはいかないという気持ちがあって M&Aを決意しました。

以前は真鶴魚市場に出入りする仲買商が多かったのですが、亡くなってやめられた方もたくさんいます。いまはかねか水産の他に仲買商がいない状態で、真鶴魚市場の鮮魚取引の80 %ほどを占めています。ですから、真鶴魚市場を存続させるためにも会社を残さないといけないと思ったんです。それから、従業員が困らないように雇用を守りたいという思いもありました。

M&Aが成立するまでの経緯を教えていただけますか?譲渡先候補の条件としたことなどはありましたか?

森谷: 真鶴魚市場との取引を継続してくれることと、給料などの条件を変えずに従業員を引き受けてくれることの2つが譲れない点でした。地元の業者だけでなく、もっと広い範囲で探したいと思い、以前からお付き合いのあったSMCに相談しました。2020年8月にSMCと初回の面談を行い、コロナ禍ということもあり中断した時期もありますが、候補を挙げていただいたなかの1社、山佐食品と契約を結ぶことができました。かねか水産は不動産賃貸業も営んでいたので、会社を分割し、不動産部は登記し直して新会社を設立、水産加工業のみ譲渡を行いました。

事業を引き継ぎ、シナジー効果でさらなる発展へ

譲渡先となった山佐食品は「食に特化した事業承継プラットフォーム」を展開するまん福HDのグループ会社でもありますね。こちらに譲渡して良かったと思うことはありますか?

森谷: 「M&Aは不動産目当て」という話を聞くこともありますが、今回のケースでは不動産は要らないと言われました。事業をしっかり受け継いで続けてくれていると感じています。

M&Aを検討している間にわかったのは、鮮魚仲買卸というのはとても特殊な仕事だということです。他業種から来てすぐにできる仕事ではありません。譲渡先の山佐食品は、焼津市で魚の切身の加工を行っている会社で共通するところも多い業種です。山佐食品のほうでは、かねか水産の加工分野の伸びしろに魅力を感じてくれたようです。それから、こちらでは相模湾の質のいい魚が安く仕入れられるので、その点でもメリットがあったのではないでしょうか。まん福HDは魚や肉を中心に食に特化した事業承継をしているグループですが、グループ全体での相乗効果も考えられているようです。伸び盛りのグループに目を付けていただいたと感じています。

先頃、真鶴で給食を担っていた会社の社長さんが亡くなって、かねか水産で引き継いでほしいという話もきていますが、このような場合には山佐食品の切身が安く仕入れられるのでは、と思っています。

M&A成立後、市場の関係者や取引先の反応はいかがでしたか

森谷: 真鶴魚市場ともその他の得意先・仕入れ先とも、これまで通りの付き合いが続いています。対外的にはこれまで通り何も変わりません。ただ今年は例年以上に魚がとれていることもあって、仕事も忙しいですし、お金の動きも良好です。引き継ぎ業務もあって、すごく忙しい状況が続いています。

それから、直接の知り合いではありませんが、かねか水産がM&Aをしたというのでうちもやってみようかなと考えている会社が出てきていることも聞いています。

社内の雰囲気や従業員の反応はいかがですか?譲渡後に変化したことはありましたか?

森谷: 10月2日の引き渡しでしたが、社員へは引き渡しの直前に公表しました。社長が代わるだけで、給料や退職金制度などの契約はそのまま引き継いでいるので、これまで通り安心して働いてもらっています 。

ただ、同じ会社を同じように続けてくれるといっても、考え方が違うのでこれまでとは違うということがわかりました。これまで会社の仕事全体がマンネリ化していたところがあるのですが、滞っていたことがスビード感を持って動き出した印象があります。勤務時間や福利厚生など、労働環境も整備され、いい方向に改善されてきています。社員にもいい緊張感がありますね。何だかみんなパリッとしてきた感じがします。

会社を譲った現在のご自身の心境をお聞かせいただけますか?

森谷: 年内(2023年)いっばいまでの顧問契約で引き継ぎ業務をしていますが、これまで総務・経理は私一人で担当してきたので、なかなか任せきるのが難しいですね。気持ちを切り替えていかなければと思っています。これまで自分の代わりがいないと思って一人で抱えてきたところがありますが、そこはクリアできた感じがします。誰か一人が抱えるのではなく、人が代わっても大丈夫なように体制を整えてくれています。まだ実感はありませんが、顧問契約の期間が終わったら、その後はゆっくりできるかな。会社のことは任せたのだからこれ以上心配しても仕方ないな、という思いでいます。

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