Case事例紹介

木製建具の歴史を受け継ぐ。次世代経営者の新たな挑戦
左:杉浦 仁 様 右:鈴木 諭 様
譲渡企業 

濱建工業株式会社(新設分割会社(旧社名と同様))

代表者名: 鈴木 諭様
(新設分割前代表者名:杉浦 仁様)

事業内容: 木製建具の製造、取付

譲受企業 

株式会社鈴三材木店

代表者名: 鈴木 諭様

事業内容: 木材の販売、木材・木製品製造加工業

M&Aの進行スケジュール

初回面談日: 2021/9/10

コンサルティング契約日: 2022/2/1

TOP面談: 2022/12/22

株式譲渡日: 2023/7/12

磐田・浜松で建具の製造と不動産業を行っていた濱建工業。静銀経営コンサルティング(以下SMC)がサポートさせていだだき、木製建具製造部門を分社化し、M&Aによる承継を実施されました。譲受したのは同じ浜松地区で木材の卸売業を営んでいる鈴三材木店。木製建具に関する建設業許可の引き継ぎも行いましたが、新設分割で建設業許可を引き継いでM&Aを行うのは県内でも珍しい事例とのこと。今回は、譲渡した濱建工業の杉浦様と譲受した鈴三材木店の代表取締役である鈴木様にお話を伺いました。

創業70〜80年で培ってきた職人とお客様を引き継ぐ。

濱建工業の事業内容とM&Aに至った経緯を教えてください。

杉浦様(以下敬称略): 濱建工業は、建具の製造と不動産業を営んでいた会社です。息子が2人いるので、初めは継いでもらいたいという気持ちはありました。しかし、それぞれ別の仕事を持っており承継は難しくなりました。その後、従業員から後継者を検討することもありましたがなかなかうまくいかず、最終的にM&Aを選びました。
一時は廃業も考えたのですが、昭和20年代から続いている会社であり、従業員もいるし、良いお取引先様も多くいます。利益も出してきてはいたのでM&Aという選択肢があるなら引き継いでもらいたいと考え、静岡銀行さんを通して静銀経営コンサルティングさんに相談しました。

M&Aを実施するにあたり、何か希望することはありましたか?

杉浦: 引き受けてくれるなら材木屋さんかなという漠然としたイメージはありました。鈴三材木店は、仕事の取引はありませんでしたが、先代の社長には組合の関係で昔からお世話になっていました。今の社長もアイデアマンで新しい分野に積極的に挑戦しているという印象があって、材木・建築業界の中でも勢いがあります。多角的な事業展開も進めているので引き継いでもらえればと思いました。鈴三材木店の新たなチャレンジの中の一助になれば良いなと思います。

譲渡後、よかったと感じる点はなんですか?

杉浦: 職人は定年を過ぎても働く人が多く、実際社内のメンバーはかなり高齢化していました。この業界は、80歳くらいまで、それこそ歩けなくなるまで働く人が多いのです。平均年齢が高い点は懸念でもあったのですが、今は鈴三材木店から新しい人が来てくれたり、新たな人材を雇ったりと少し若返っています。引き継ぎ期間は終わりましたが、今も会社には顔を出しているので社員とも話をしますが、新たな社長は真面目で社員のことを一生懸命考えてくれると聞いて安心しています。鈴三材木店としては徐々に分野を広げていっているので、次はどんな新しいことをやるんだろうと楽しみにしています。

業界や地域が成長するための新しい連携を目指す。

鈴三材木店様について教えていただけますか?

鈴木様(以下敬称略): 鈴三材木店は、地元産の木材を中心に取り扱う会社です。当社の主な事業は木材の卸販売ですが、木材を通じて社会にどのような価値を提供できるかをテーマとしています。会社のポリシーとして、現在の自分達が存在するのは周りの人々のおかげであり、過去や未来があるからこそだという考え方があるため、自社だけでなく業界や地域全体が発展することを目指しています。具体的には、原木を生産する林業から、木材を使う建築・施工に至るまでのサプライチェーン全体が持続的に商売可能な状態を作ることが重要だと考えています。

濱建工業さんの紹介を受けたときはどのように考えましたか?

鈴木: 当社は以前、サプライチェーンを意識し、自社に施工能力を追加するという目的で、建設会社の創建をM&Aで譲受した経験があります。そのため、M&Aは自社の領域を広げる良い機会だと捉えています。
濱建さんをはじめに紹介いただいた時は、建具というのはこれまで考えたことがなかったので、創建の専務を任せている者に相談しました。すると、それはとても面白いと賛成の意見をもらいました。従来、木工事会社と建具屋さんは別々に仕事をするのが通常でしたが、それを一つの会社で実施できるのは大きなメリットになるのではないかと。一般住宅では施工会社の大工が建具まで取り付けるのが通常だったので、そのプロセスを非住宅(公共施設、商業施設、事務所、病院など)でも適用できれば、意思の疎通や効率の面でプラスになると考えたのです。また、加工業という機能を自社に取り込むことにも魅力を感じました。
さらに、お互いの顧客をシェアする可能性も考えました。濱建さんは私たちにはないハウスメーカーとのお取引があり、住宅に関しての知見も得られると考えました。

M&Aを経て、今後はどのような展望がありますか?

鈴木: M&Aによって実現する顧客と技術のシェアを通じて、これまでとは少し異なる新しい分野にチャレンジすることを目指しています。実際に創建と濱建工業の連携による相乗効果は現れ始めています。鈴三材木店、創建、濱建工業の各社は、それぞれ異なる技術とリソースを持っていますが、例えば繁忙期にそれぞれが補完し合うなど、人材のシェアやマッチング、そして情報の共有を、今後もっと進めていきたいと思います。
実はこのモデルのヒントは、東日本大震災で被災した女川町の復興から得ています。私たちは女川町にウッドデッキを提供したことがあり、その後も交流を続けさせてもらっています。復興過程では、一度ゼロからスタートしたことで、別々に存在していた会社や人材などのリソースをまとめ、人材をシェアしたりお互いに手伝いあったりと、コストを抑えつつスピードを上げる方法を考えて再建を進めていました。このようなやり方が今後の人材不足の時代に必要なのではないかと思っています。最終的には、自社内だけではなくサプライチェーン全体でもシェアし合うことができれば、業界全体や地域が盛り上がっていくという理想の形ができるのではないかと思っています。