Case事例紹介
M&AとMBOで承継の可能性を探る。
オオゼキ写真印刷株式会社(現・株式会社CROSS LINK)
執行役員: 高林大輔様
事業内容: 商業印刷、写真撮影、企画・制作業
株式会社三春情報センター
代表者名: 春木磨碑露様
事業内容: 不動産業を中心とする総合生活産業
初回面談日: 2015/12/11
コンサルティング契約日: 2018/7/10
TOP面談: 2022/6/14
最終契約: 2022/9/27
老舗の商業印刷業であったオオゼキ写真印刷株式会社(現・株式会社CROSS LINK)は、事業承継の選択肢としてM&A(第三者承継)、MBO(従業員承継)を並行して検討していました。両方の可能性を探りながら約4年にわたり静銀経営コンサルティング(以下、SMC)がサポートし、結果としてM&Aの成約に至った事例をご紹介します。譲受企業は横浜にある不動産を中心とした総合生活産業をコンセプトとする株式会社三春情報センター。業種を超えたM&Aにどんな経緯や相乗効果があったのかインタビューしました。
自律的な組織づくりをしながら、従業員承継(MBO)からM&Aへ転換。
高林様(以下敬称略): 旧オオゼキ写真印刷は、静岡県浜松市で1931年に創業した企画・印刷・撮影を行う会社で、地元浜松市を中心としたお客様に対してサービスを提供してきました。今回のM&A後にブランドの再構築を行い、社名を株式会社CROSS LINKとしました。
当初は、高齢のために事業承継を考えた先代から、私に従業員承継を提案されました。非常に光栄に感じた一方で、突然の話だったのでとても驚きました。個人保証や妻の会社参加といった具体的な条件も出てきたため、戸惑いも大きく感じていました。
その後、SMCさんからM&Aの提案もあり、徐々にM&Aの方向で進んで行きました。
一方で、M&Aがまとまらなかった場合に備えて、社内の自律的な体制づくりも進めました。SMCさんの経営支援チームのサポートも受け、情報整理や事業計画の策定、資金の最適化も学びながら取り組みました。新しい事業の立ち上げとしてお茶のブランドの立ち上げも行いました。
最終的にはミックグループへの譲渡が決まり、昨年からグループの一社としてジョインさせていただいています。全員が前向きに取り組める環境を得ることができ、よかったと思っています。
春木社長(以下敬称略): 当社はもともと不動産・建築業が中心でしたが、今では総合生活産業として、家をプラットフォームとした生活全般に関わるサービスを提供しています。例えばレストラン、ケーキ店、アパレルなど、不動産の購入後も生涯にわたってお客様と関わっていけるような事業を展開し、業界の常識を超えるサービスを提供していくことが差別化につながると考えています。
M&Aというものについては、かつては良い印象を持っていませんでした。しかし、先述の通り当社は様々な業種の事業展開をしており、自分たちがやりたいことを迅速に実現できるという点に気づいてからは、M&Aの価値を再認識し、2022年にSMCさんから提案を受けて宿泊施設を譲受しました。
今回のM&Aについてですが、当社のメインの不動産事業では、主にチラシを使ってお客様に情報を届けています。今の時代、この物件がいくらですというあたり一辺倒な不動産チラシではなかなか売れませんし、生活提案をする必要があります。旧オオゼキ写真印刷は、写真からデザイン、印刷まで行うクリエイティブな発想ができる人材が揃っています。総合生活産業としての生活提案をする上では、社内のクリエイティブ部門として有効だと考えました。外注するよりスピーディにクオリティの高いものを具現化できます。また、そのクリエイティブやブランディングのノウハウは、この地域でも新たな市場を開拓できると思い、譲受を検討しました。
高林: 最初は「横浜」にある「不動産会社」という、地域も業種も違うということに驚きましたが、春木社長のビジョンや多岐にわたる事業展開を知り、徐々に理解していきました。ミックグループに入ってからは、グループ全体でのシナジーを実感しています。横浜オフィスも開設し、これまで行ってきたノウハウをグループ全体に活用することや、新たな事業にも取り組んでいます。
100年企業の原点を大切に、新たなビジョンを構築。
M&A後、まず取り組んだことは何でしょうか?
春木: 決済式の翌日からまず行ったのは、会社のリブランディングと社屋のリノベーションです。リブランディングについては、自分たちで会社を作るという意識を高めるため、私が入るのではなく外部のコンサルタントに入ってもらい、第三者からの視点を取り入れながら実施しました。
高林: M&A後のリブランディングでは、ミックグループの理念研修が非常に役立ちました。M&Aに対して多少なりとも不安もありましたが、春木社長の話を聞いて、仕事を通して自己実現していくという意識が芽生えました。また、春木社長は毎月一度浜松に来て社員とのコミュニケーションの時間を設けてくださっています。
春木:
新しい社長が来て一方的にトップダウンで進めるという形にはしたくないので、できるだけメンバーとコミュニケーションを取ろうと思っています。会議はオンラインでもできますが、直接会って打ち合わせをしたり、食事にも出かけて話したりする中で、社員から様々なアイデアも出てきます。今では、高林執行役員よりも社員の情報を持っているかもしれません 笑
でもこれも半年間と決めています。半年間は行くけれど、それ以降は自分達で進められる体制を整備するよう伝えています。
高林: 「旧オオゼキ写真印刷は今創業93年、あと7年で100年を迎えます。実は、M&Aにより一旦リセットされるような認識を持っていたのですが、春木社長から『100年企業として今までの歴史に誇りを持ち、それを活かした上でより良くしていく』という方向性を示されました。
春木:
もったいないですし、皆わかっていないんです。自分たちの強みを一度きちんと洗い出し、それを明確に伝えるものを作って戦略的に営業すれば大きく変わると思いました。
新しい社名「CROSS LINK」には掛け合わせて新しい価値を創造するという意味が込められています。また新しいロゴのマーク部分はシャッターです。写真印刷から始まったということを表現するためにモチーフとしました。またHPや名刺を見ていただくとモノクロ写真を多く使っています。こちらもモノクロ写真印刷から始まった会社という歴史を踏まえた表現です。
高林: オフィスのリノベーションもブランド再構築という意味では大きかったですね。これまでは営業、企画、デザインの部隊がそれぞれ分かれていたのですが、ワンフロアで1つの空間で仕事ができる環境となりました。
春木: 環境が人を変えるので、とても重要だと考えています。小分けになっていた部屋をワンフロアにまとめ、セクションごとに分かれていたコミュニケーションを活発にすることで、組織全体の効率が向上しました。また、荷物の整理やデジタル化も進め、無駄を省くことで生産性を高めました。様々な取り組みの結果ですが、実際に昨対売上は130%、当期利益も昨対20,977%になりました。
高林: 今までは社員の向かう方向が一つでなかったのだと思います。今回のリブランディングを通して、2030年までのビジョンや戦略を明確にしたことで、日々やるべきことが明確になりました。今、仕組みを作っている途中なので、今年も勝負の年ですね。
異業種間M&Aで生まれる相乗効果を実感。
高林: 2030年までに静岡と神奈川でナンバーワンのブランディング企業になることを目指しています。グループがこれだけ幅広い業種を持っているので、その中で連携するだけでも領域は広がっているのですが、横浜に拠点ができたことで、商圏も神奈川県まで広がりました。従来と異なる領域への挑戦が、結果的に本業につながってくると考え、これまでにあまりやってこなかった業界の仕事にもチャレンジし始めています。デジタル化が進む中で、印刷事業の役割も変わってきていますので、変わるべき部分と守るべき部分を見極めながら、積極的に新しいことに取り組んでいきます。CROSS LINKとしてももちろんですが、ミックグループのビジョンの実現にもしっかり貢献して、みんなが幸せになれるような形で運営していけたらと思っております。