Case事例紹介
株式会社古田屋
代表者名: 古田 昌巳様
事業内容: 酒類・一般食品・米穀小売業、ガソリンスタンド経営
遠州鉄道株式会社の100%子会社である
株式会社遠鉄ストア
代表者名: 宮田 洋様
事業内容: スーパーマーケット事業
初回面談日: 2008/4/3
コンサルティング契約日: 2019/8/15
TOP面談: 2022/2/22
最終契約: 2023/1/26
後継者問題や人口減少、地域に求められる役割の変化。こうした経営課題に向き合う中、古田屋は当社がM&Aをお手伝いさせていただいた遠州鉄道グループ(以下、遠鉄グループ)との提携を通じて、「守るべきこと」と「変えるべきこと」のバランスを探り、新たな成長への一歩を踏み出しました。
今回のインタビューでは、古田屋の社長、大祐部長(古田社長のご子息)、笹瀬専務の3名に加え、遠鉄グループのご担当者にもM&Aに対する考え方や戦略を伺い、双方が描く未来のビジョンを詳しくお届けします。
未来へと価値を繋ぐためのM&Aという決断
古田社長: 古田屋は明治初期に米穀・肥料商から始まり、時代の変化に合わせて徐々に事業を拡大してきました。今は「米」「酒」「ディスカウントストア」「ガソリンスタンド」の4つを柱としています。地域の暮らしを支える店であることを大切にし、必要とされるものを柔軟に提供しています。私は譲渡後も引き続き社長として、意思決定に関わっています。
笹瀬専務: 私は遠鉄ストアから来て、古田屋の経営全体を俯瞰しながら、専務として社長と現場を繋ぐ役割を担っています。組織がより活性化できるようなマネジメントとして、組織の整理や役割の自覚を促し、一人ひとりが自発的に動ける体制づくりを心がけています。また、遠鉄ストアとの新しい関係づくりやノウハウの共有を進めています。
大祐部長: 以前は現場で店長をしていましたが、今は部長として会社全体の課題解決や運営強化を担当しています。以前は「自分の売場」だけを考えていましたが、現在は全社的な視点で動く必要があり、社員同士の連携や意思決定のスピードを高める役割が求められています。
古田社長: 業績は堅調でしたが、将来を考えたとき「現状維持は衰退」という言葉が頭に浮かびました。これは先代からずっと言われてきた教えでもあります。これまでの私と常務(姉)で進めてきたトップダウンの体制では、自分たちが抜けた後に企業が永続できないという危機感がありました。人口減少や地域ニーズの変化もあり、私が元気なうちに次の体制を整える必要があると判断し、静銀経営コンサルティングさんに相談しました。遠鉄グループとは「地域に根ざし、人々の暮らしを支える」という理念が一致していたことも、大きな後押しとなりました。
笹瀬専務: 遠鉄グループとしても、古田屋さんが持つ地域密着型の商いの強さやディスカウントストアという新しい業態への挑戦に価値を感じていました。私たちがこれまで展開してこなかったエリアでの取り組みであることも決め手でした。
大祐部長: M&Aのことを最初に聞いたときは驚きましたが、徐々に、社長が長い時間をかけて考え抜いた決断だと理解することができました。会社の未来のために何が良いかを考える機会になり、自分も成長するきっかけになったと感じています。
理念と価値は守りながら、新たな挑戦へと踏み出す。
笹瀬専務: 私は、まずは信頼関係を築くことに力を入れました。現場の声を尊重し、小さな変化を積み重ねながら体制づくりを進めています。大きく変えるのではなく、古田屋の企業風土に合わせて無理のないステップで変革を進めることを大切にしています。また、現場の意見を吸い上げる仕組みとして部長会を立ち上げ、これまでのトップダウン体制から現場主導の意思決定へと徐々にシフトさせています。
大祐部長: 部長会の仕組みによって、現場にも「自分たちが会社を支えている」という意識が育ちつつあります。これまで社長や常務に頼っていた判断を、自分たちで考え決める機会が増え、現場の自立心が高まっていると感じています。
古田社長: 社員には「大きくは変わらない」と伝えました。基本的には社員もこれまでと同じメンバーで続けていますし、古田屋としての価値観や店のあり方は変わりません。ただ、見えない部分では組織の体制が着実に進化しています。
大祐部長: まずは遠鉄ストアから紹介された流通の発注システムを導入しました。これまでの紙・FAX中心の業務から脱却し、デジタル化を進めています。さらに、給与体系や就業規則の整備を進め、従業員がより安心して働ける環境づくりにも力を入れています。ポイントカードや顧客データの管理・活用も強化し、これまで以上にお客様に寄り添ったサービスや販売促進を目指しています。
笹瀬専務: 商品調達では、遠鉄グループのネットワークを活用しながら新しい商品を取り入れるだけでなく、古田屋で見つけた優良商品を遠鉄ストアに提案する流れも生まれています。双方向のやり取りによるシナジーが少しずつ形になってきました。また、遠鉄ストアで行っている社内コンテストや表彰なども取り入れ、社員のモチベーション向上にも取り組んでいます。
古田社長: 属人的だった業務を標準化・仕組み化し、私がいなくても回る組織にすることを意識しています。これが今の私にとって最も大切なテーマです。
大祐部長: 将来に向けた体制づくりとして、現社長のノウハウをしっかりと継承することが第一だと考えています。まだまだ学ぶことは多いですが、グループ内の他社との交流を通じて視野を広げ、他社の工夫や考え方を積極的に吸収していくつもりです。自分自身が会社を支える柱の一人として、さらに成長していきたいと思っています。
笹瀬専務: 組織の柔軟性と強さを両立させ、現場の自主性を引き出すことで、将来に向けて強い基盤をつくりたいと思っています。お互いに刺激し合いながら、新しい価値を創造する企業を目指します。
古田社長: 大きく見せる必要はありません。必要なものを必要な形でお客様に届け、信頼されるお店であり続けたい。その上で、現状にとどまらず、遠鉄グループに加わったからこそできる新たな挑戦にも取り組んでいきたいと思います。
備えは早く、理念は強く。未来を見据えた一手を。
笹瀬専務: 譲受側からは、「買う」のではなく、「共に育てる」という意識が成功のカギだと思います。理念や文化を尊重し合いながら進めることで、本当の意味での成長が実現できると感じています。
大祐部長: 最初は不安や戸惑いがあって当然ですが、そのプロセスを乗り越えることで、自分自身も会社も大きく成長できます。経営者や社員が一丸となって未来を考える貴重な機会になると思います。
古田社長: M&Aは「終わり」ではなく「はじまり」だと思っています。大切なのは、会社の良さを未来につなぐために今何をするかを考えることです。私は「譲る」というより「続けるために託す」という感覚で決断しました。そのためには、早めに準備を進め、良いタイミングで決断できるようにしておくことが必要です。また、株を分散させず、経営の意思決定を一貫して進められる体制を整えておくことも重要だと感じています。未来を見据え、しっかりと備えておくことが何より大切だと思います。
成長戦略としてのM&A。古田屋と共に、新たな価値創造へ。
磯部氏: 古田屋さんとの連携を進めることにした理由は、自社グループにはなかったディスカウントストアという業態を持っていたこと、そして遠鉄ストアがこれまでカバーしていなかったエリアに展開していたことが大きかったです。それに加え、地域に根ざしてお客様を大切にするという古田屋さんの理念が、当社と一致していたことも決め手でした。
磯部氏: もちろん、利益を上げられているか、企業価値はどうかという点は重視しました。加えて、古田屋さんの経営に対する思いや理念をしっかりと持ち、それを実際に体現してきた点もポイントでした。古田屋さんは社長が強いリーダーシップで経営されていたため、トップダウンの組織から徐々に柔軟な体制に移行する必要があると考えました。今後は遠鉄ストアの組織の運営方法を取り入れながら、古田屋さんの強みを活かし、より持続的な成長を目指していく計画です。今回のように、社長が引き続き残り、これまでのノウハウを継承しながら段階的に進めていく形は、当社としても珍しいケースです。
岡野氏: まずは古田社長の経営手法を、我々がサポートしながらご子息をはじめとした後継の方々に伝えていく方針があったため、株式を譲受した後すぐに我々のやり方に切り替えるのではなく、遠鉄グループとしても見守りつつ、徐々にシナジーを高めていこうというスタンスを取りました。
磯部氏: デジタル化や給与体系の整備、商品調達の連携など、さまざまな面で協力が進んでいます。例えば、古田屋さんが扱っていた商品を遠鉄ストアの店舗で販売する取り組みや、ガソリンスタンド事業での相場情報の共有による収益改善など、少しずつ具体的な成果が見え始めています。お互いの強みを活かし合いながら、これまで以上に柔軟で強い体制をつくることを目指しています。
岡野氏: M&Aは当社の成長戦略の一つとして、2010年頃から積極的に取り組んできました。自前で新規事業を立ち上げるよりも、M&Aによって時間を買い、事業拡大や地域貢献を加速できると考えています。ただ、相手企業の理念や地域への思いを非常に重視しており、単に「買う」ではなく「共に未来をつくる」という姿勢で進めることが大切です。短期的な成果を求めず、まずは従業員が安心して前向きに働ける環境を整えることが、成功のポイントだと感じています。