
Top Leader Interviewトップリーダーインタビュー
〝みしまコロッケ〟をきっかけに地方創生に取り組む

株式会社 東平商会
代表取締役
山本 雅弘 氏
YAMAMOTO MASAHIRO
1963年静岡県長泉町生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。1987年、三井物産(株)に入社し、産業機械の輸入業務、国内販売等に携わる。97年、(株)東平商会入社、2007年、代表取締役就任、現在に至る。
1957年創業の(株)東平商会。東レ(株)の協力会社として長泉町で事業を始め、作業部、産業資材部、食品部、工事部の4つの事業部で多角化経営を進めている。最近では、ご当地グルメの「みしまコロッケ」の通年販売を可能とする冷凍商品を開発し、全国的な人気を博すきっかけを作ったことで知られる。地域特産を使用した斬新な新商品を次々と開発し、M&Aなどにより多角化経営をさらに進めようとしている3代目社長、山本雅弘氏に、「みしまコロッケ」誕生の経緯、新商品開発の出発点、フードロス削減をはじめとする環境対応、地域貢献活動に対する考えなどについてうかがった。
■創業から10年で多角化経営の基礎を構築
当社は1957年7月に私の祖父が創業しました。現在創業67年目になります。
東レ(株)三島工場の協力会社としてスタートしたのですが、お世話になっている東レのためにできることはないか考え、繊維資材を販売する産業資材部を1962年につくりました。その後、浜松工場を立ち上げ、舟艇用艤装品を製造するようになりました。
63年に立ち上げた食品部も、初めは東レ三島工場内の食品販売からスタートしており、徐々に学校給食などに販路を広げていきました。67年に電子部、68年に工事部ができます。
会社ができて最初の10年で現在の作業部、産業資材部、食品部、工事部の4事業部の基礎をつくったことになります。
これは創業時からの「お客様から頼まれたことは断らずにまずは挑戦してみる」という姿勢があってこそなしえたことだと考えています。
事業拠点は、長泉町の本社と三島営業所、伊東営業所、静岡営業所、浜松工場、神奈川営業所、東京営業所の7カ所。(株)富士サービスと富士物産(株)の2つの関係会社があり、グループ全体で274名の陣容となっています。
作業部は創業時からの仕事で、東レ三島工場の中で、衣料、産業用の糸や、電子部品に使われるフィルムなどの製造請負をしています。
産業資材部は、浜松に縫製工場を持ち、プレジャーボートのドライバーシートやソファなどを作っています。また最近のキャンプブームに乗って、一般車を改造したキャンピングカーが増えてきていますが、当社ではポップアップテントやクッションなどを作っています。 この他にキッズクッションと呼ばれる、店舗内で子供が遊ぶコーナーで使われるクッションを作っています。テーマパークや空港、スタジアムなどの大型施設向けのキッズコーナーにも関わっています。また飲食店の内装なども行っています。
食品部は、業務用食品の総合卸で、調理冷凍食品、冷凍野菜、水産品、畜産品、乾物、調味料、缶詰、輸入食品、自社PB商品などを扱っています。お客様は、富士箱根伊豆エリアの観光地にあるホテル、旅館が昔から多いのですが、その他に飲食店、アミューズメント施設、また産業給食、学校給食、介護施設向けの給食、スーパーマーケットなどがあります。
外食の比率が高いので、新型コロナの影響を受けた3年間はお客様が休業してかなり苦労しましたが、今は人出も増え、コロナ前以上の業績を上げてくれています。工事部は法面防災工事、体育施設工事、外構工事などの専門分野の工事を得意としています。特に法面防災工事は、近年の豪雨災害の修復工事や予防のための工事で昨今は大変忙しくなっています。
また10年前までは電子部という事業部がありました。電子部は、主に半導体業界向けのプリント配線板の実装の仕事をしていましたが、海外との競争が激しく、傷が大きくならないうちに撤退しています。
関係会社の(株)富士サービスは東平商会の作業部と同様、東レ三島工場の中で、運搬や清掃の仕事をしています。

■ご当地グルメの「みしまコロッケ」が好調
食品部が約7割を占めています。当社の食品部は、2000年代までずっと赤字体質でした。同業者との価格競争が激しく、利益率も低かったため、忙しくても儲けの出ない状況に陥っており、中間流通である卸売業の戦略として、川上のメーカー的なポジションに立つ必要性を感じていました。
そうした中、2008年、当時の三島市の小池市長が、三島市にもB級グルメ、ご当地グルメを作ろうと声を上げ、市長のアイディアで、特産品の三島馬鈴薯を使った「みしまコロッケ」が開発されたのです。
三島市役所の職員が、市内の飲食店、ホテル、精肉店を1件1件訪ねてコロッケ作りをお願いし、馬鈴薯の生産者や、市民の有志、商工会議所なども集まって、「みしまコロッケの会」が結成されました。
しかし、それから1年経った時、コロッケの会から当社に相談がありました。みしまコロッケの会を立ち上げたが、経済効果が出ないので、何とか協力してもらえないかという依頼でした。
みしまコロッケは、三島馬鈴薯を100%使うことというのが唯一の定義なのですが、三島馬鈴薯は年に1度、7月から8月にしか収穫されず、11月ごろには芽が出てきて全部使いきらなくてはなりません。つまり、コロッケの販売時期が、8月から11月ごろまでに限られてしまい、通年販売できないという問題がありました。
もう1つは、コロッケは作るのに手間がかかるため、協力してくれる飲食店の数にも限りがありました。そこで、冷凍のコロッケを開発して、年間を通じて流通させようと考えました。
当時は、社内でもコロッケなど売れるのかと反対意見もありましたが、食品部の部長を中心に小ロットで作ってくれる協力工場を探して、開発を始めました。社内で試食を繰り返し、おいしい三島馬鈴薯の味を引き立たせるために、最終的にシンプルな塩・胡椒ベースの味付けになりました。
翌2009年に発売したところ、ご当地グルメブームの勢いに乗って、当社の既存顧客であるホテルや飲食店に加え、三島市内のこれまで取引のなかった飲食店でも、好調に売れ出しました。結果として、その年に約10トンの三島馬鈴薯を使って、24万個のコロッケを販売しました。その後、年々販売量が拡大し、現在では100トン規模の三島馬鈴薯を使って、年間200万個のみしまコロッケを販売しています。





「みしまコロッケ」が予想以上にヒットしたことで、ビジネスモデルを横展開できないかと考えて、2011年、長泉町のご当地グルメとして、特産品であるあしたか牛と長泉白ねぎを使ったメンチカツ「長泉あしたかつ」を開発しました。
みしまコロッケの事例を参考に、商工会、行政、飲食店、JA、企業有志と共に、長泉あしたかつ推進協議会を結成し、知名度向上に向けたイベント企画や情報発信に取り組みました。
名前が「明日勝つ」と読めて験担ぎとなることから、受験生のためのご当地グルメとして広める戦略にして、長泉町のすべての中学校の学校給食で、高校受験の前日の定番メニューとして提供されるようになりました。部活動の試合前などに食べて、みんなで頑張ろうという子どもたちも多くいます。
2014年からは、各地のご当地メンチカツ団体に参加を募り、ご当地メンチカツサミットを開催しました。このイベントは毎年、全ブースが完売する盛況ぶりで、コロナ前まで計6回開催しました。
「いとうナゲット」も新開発しました。伊東営業所の社員が、ご当地グルメを作りたいと発案し、伊東で取れるサバを使ったナゲットを作りました。東京の日比谷公園で開催された2016年の第4回Fish-1グランプリに出展したところ、ファストフィッシュ商品コンテストでグランプリを受賞しました。
こうして社員が商品開発に積極的に取り組むようになり、次々に新商品が誕生するようになりました。
たとえば、三島にんじんを使った「ぎゅっとまるごとにんじんジュース」です。当社は2014年から農地を借りて農業に参入し、契約農家と協力してにんじんの栽培を始めました。収穫したにんじんを絞り、ペーストを加えて、ジュースを作っています。
このにんじんには、高めの血圧を下げる効果が期待できるGABAが含まれていたことから、機能性表示食品の届け出をしています。この商品は静岡県の加工食品のコンテスト「ふじのくに新商品セレクション2021」で最高金賞を受賞することができました。また、「箱根西麓三島野菜 畑まるごとスープ」は、三島市観光協会の、流通から外れてしまう「はじかれ野菜」を活用したプロジェクトに賛同して作った2種類のレトルトスープです。フードロス解決の取組みが評価され、「ふじのくに新商品セレクション2024」の金賞をいただきました。
現在のご当地グルメ(地域食材を使った加工食品)の総売上高は、約1.5億円で成長を続けています。
■M&Aなどにより積極的に事業を多角化
当初、商品開発は社員が管理や営業をしながら掛け持ちで行っていましたが、商品が増えてくる中で、開発を専門とする組織の必要性が生じ、いとうナゲットを開発した社員を抜擢して2019年10月に開発営業課を立ち上げました。商品開発と広域営業を同時に行っています。
製造に関しては、M&Aで自社生産ができるようになりました。静銀経営コンサルティング(株)の仲介で、後継者のいなかった富士物産(株)を2022年2月にグループ化しました。同社は冷凍とろろ芋や和総菜を製造するメーカーで、東平商会本社と同じ長泉町にあり、グループ内に製造拠点を保有することで、食品卸としての提案力を強化できると考えました。
また、これまで当社の開発商品は全て外部企業に委託加工をお願いしていたのですが、商品によっては内製化が可能となりました。すぐに工場の増設が必要となったため、近隣でちょうど空いた工場を買い取り、リニューアルして第二工場とし、これまで生産してきた商品に加えて、同社のノウハウを生かして新たに介護食の製造を計画しています。
2023年2月には、東京都大田区の業務用食品卸の業務を事業承継しました。同社社長からの相談を受けて、商権と従業員を引き継がせていただき、もともとあった当社の築地営業所と統合し、東平商会東京営業所として新たなスタートを切りました。初年度から黒字化を果たし、現在は首都圏でのマーケット拡大に注力しています。
M&Aに限らず、今後も積極的に多角化を進めていきたいと考えています。私が社長になってから、リーマン・ショック、東日本大震災、コロナ禍がありましたが、その都度ダメージを受けた事業が違いました。たとえば、コロナ禍では外食関係がひどい状態に陥ったのですが、他の3部門はダメージを負わずに済み、4つの事業の柱があることで安定した経営ができたのだと実感しています。この4つの事業を維持しながら、今後も新たな事業を作っていく方針です。
もともと、環境ISO認証を取得するなど、環境配慮型の経営を志向していましたが、現在は、SDGs、カーボンニュートラル、省エネルギーを進めていかなければ、企業として選ばれなくなっていますので、積極的に関連投資をしていきたいと考えています。フードロス対策もその一環で、みしまコロッケやにんじんジュース、いとうナゲットなども、地元でとれる食材を無駄なく使い切ろうという取組みです。
ご当地グルメを通じて、周辺の学校や企業との連携にも取り組んでいます。2018年、日大三島高校が60周年記念イベントとして、ギネス世界記録に挑戦しました。食べ物を同時に食べさせ合いをした最多ペア数で1,990組の記録を作り世界記録を塗り替えました。生徒会から依頼を受けた当社はこれに全面協力し、4,000個のみしまコロッケを無償提供し、当日も社員が10人ほど参加して、朝から揚げ調理を行ないました。
伊豆箱根鉄道(株)とは、駿豆線三島駅のネーミングライツを2023年8月に取得し、副駅名を「伊豆と箱根のおいしさをとどける東平商会」としました。24年10月には、みしまコロッケ・長泉あしたかつ食べ放題電車を企画し、好評を博しました。
「ご当地グルメ」は、生産者、委託加工業者、販売者、消費者、市民の方など多くの方が一緒にアイディアを出しながらそれぞれ成長していくことができ、地域活性化効果が高いと思います。イベントへの商品提供は単体では採算割れですが、地域貢献活動として利益度外視で協力させてもらっています。
これまであまり公にしていなかったのですが、私は大学時代、漫画クラブに所属し、アルバイトで似顔絵を描くなど、絵を描くのが得意です。最近、もう隠さなくても良いのではと思い、月1回イラストをブログに投稿するようになりました。
東京オリンピックのスタジアムデザインを一般公募していた時、コロッケ型のスタジアムのイラストをブログに載せたところ大きな反響があり、それに味をしめて、テーマパークの新しいアトラクションを毎回紹介しますという体裁でブログを書いています。ラジオ番組でブログを宣伝させていただいたこともあり、会社のために自分のスキルを使える場があってよかったと思っています。