
Top Leader Interviewトップリーダーインタビュー
新たな挑戦を続け〝スポーツの楽園〟づくりを推進

株式会社 シラトリ
代表取締役
西丸 聡司 氏
SAIMARU SOSHI
1969年大阪府生まれ。慶應義塾大学文学部卒。大学では体育会野球部に所属。住友商事(株)に入社し、アメリカ駐在を経験。2020年、(株)シラトリに入社。副社長を経て23年6月、代表取締役社長に就任。
1920年創業の老舗スポーツ用品店(株)シラトリ。現在では静岡県、神奈川県、山梨県に12店舗を展開し、「SPOPIAシラトリ」ブランドを掲げて「健康の楽園(ユートピア)~すべての人に健康的な毎日を~」をミッションとしている。少子高齢化が進展し、マーケットが大きく変化していく中にあっても、時代にマッチする商品を提供し、成長を続けてきた。2023年、長らく社長を務めてきた白鳥浩二氏の後を継いだ西丸聡司社長に、スポーツマーケットの環境変化、ネット通販への対応、ゴルフガーデンをはじめとした新分野挑戦の狙い、今後の経営戦略などについて伺った。
■地域No.1のスポーツ用品店
県内外に積極的に出店
当社は1920年の設立で、今年で105年目となります。元々は静岡駅前の商店街にあったのですが、75年に大型の郊外型スポーツ用品店「静岡ジャンボ店」として、静岡市葵区東町の国道1号線沿いに移転したのが、大きな転機となりました。
高度成長期の大量消費時代の時流に乗ったこともあり、ジャンボ店は大きく売上を伸ばしました。その後、大店法の改正などがあって、比較的大きな店舗を出店しやすくなり、沼津市、藤枝市、浜松市などに立て続けに出店しました。平成に入ってからは静岡県外への出店をスタートし、現在では、静岡県7店舗、神奈川県4店舗、山梨県1店舗の計12店舗のスポーツ用品店と、2店舗のTSUTAYA、2店舗のGOLF PARTNERを展開しています。
県外進出を検討した頃は、ロードサイドに自分で土地を買って建物を建てるというやり方が採算的に難しくなっていましたので、ショッピングセンター内に出店しました。私が社長になってからも、イオンモール甲府昭和店、浜松志都呂店を出店したのですが、いずれもショッピングセンターの中です。家賃は相応に高いので、当社のシェアが高いエリアで、かつ手薄になっている場所でないと、収益的に厳しいですね。今後も、特に静岡県内で積極的に空白を埋めていくことが必要だと思います。
劇的に変化しています。特にコロナ禍の直前から、この先10年、合わせて15年ほどの期間は、産業革命と言っていいほどの変化だと思っています。これだけ子どもの数が減ってくると、明らかにマーケットは小さくなり、どうしてもパイの取り合いになってしまいます。
一方で、60歳以上の年配の層のマーケットは拡大しています。たとえば30年前の60歳と今の60歳ではアクティビティーが明らかに違いますから、元気な年配の方たちのマーケットに対して、しっかりとした提案をやっていくことが重要だと思っています。ウォーキングやランニング、水泳などが特徴的なのですが、ウェアや道具の機能がどんどん進化していますので、実際に使って体感していただくような形にしていきたいと思います。
コロナの影響を受けた期間としては、3年くらいでしょうか。この間、子どもたちの集団でやるスポーツ活動ができなくなりました。一方でシニア層をはじめ、皆さん健康に気を遣うようになり、スポーツに対する意識が大きく変化しました。この3年間をトータルするとコロナの影響は、意外に思われるかもしれませんがプラスでした。部活動のシュリンクは大きくマイナスだったのですが、その一方で、野外活動であるキャンプやゴルフ、ランニングなどは、ブームと言われる状態でした。このプラスの方が大きかったと思います。


■ターゲットに合わせた対個人の販売戦略を展開
マーケットとしてはもう当たり前のことですが、我々としては、ネットを使うにしても、当社のネットで買ってもらいたい。リアルとネットで比較して動くお客さんを囲い込まなければいけないと思っています。私はこちらに転職する以前、ECをやることによってリアル店舗がない北海道でも沖縄でも売れる、ECはそのためにあるのだと思っていました。しかし、やってみると実はそうではありませんでした。やはりリアル店舗の信用力がないマーケット、シラトリブランドを知らない地域では、ECは売れない。特に高額な商品ほど売れません。
そのため、まずは静岡県内の店舗のあるエリアのECのシェアをリアル店舗並みに高くしようと、今、集中的にやっています。たとえば、ネットで買ったものを店に取りに来ていただいたら割引します。来店していただいたところで、また1つ何か買ってもらえるかもしれませんので、それを意識してサービスします。また、リアル店舗で購入されたときに付いたポイントは、ネットでも使えます。
POSレジとアプリ会員の個人情報が紐付けられるようになったので、個人の購入履歴がすべてわかるようになり、過去の買い物に合わせてクーポンを確実に届けることができるようになりました。不特定多数に割引券を配るよりも、過去のデータに基づいてクーポンを出したり割引するなど、対個人の施策を打つ方がプラスだと思います。
男女比率だと7:3で男性の方が多くなっています。ターゲットはやはりファミリーです。お父さんお母さんからお子さんまで一緒に買っていただくのがメインのターゲットですが、財布を持っているのは、お母さんです。書店や飲食店ならば、高校生、中学生が自分のお小遣いで買うケースはあると思いますが、当社の単価ですと、どうしても家族で来て親が買うケースがほとんどです。もちろん中学生、小学生が欲しいものを置かなければいけないのですが、やはり親が買いやすいものを意識しないといけません。
反対に、ゴルフ用品は、家族で来たらお父さんは買わない。ショッピングモールは、家族で買い物して食事もしてと、いろいろな店を見て回りますが、そこにゴルフ道具を並べてもまず売れないので、置いていません。
■成長見込める新分野・新市場とM&Aに挑戦
静岡はスポーツが盛んなイメージで、冬でもスポーツができるというプラスはあります。山もあるし海もある。スキー場に行こうと思えばそこそこ近いので、環境としては非常に整っていると思います。高校生スポーツも盛んですし、プロスポーツチームも増えてきました。これだけプロスポーツが増えてくると、スポーツを見る人たちのマーケットも拡大します。オリンピックでバレーボールがすごく盛り上がったので、選手の名前入りのTシャツを置いたところ、今まで来たことないようなお客さん、アイドルの追っかけのような人たちがたくさん来店しました。自分ではスポーツをやらない、見るだけの人たちです。そういう需要も取り込まなければいけないと、改めて思いました。
これまでスポーツ小売店は、自分たちの市場を異業種からどんどん侵食されてきた流れだったと思います。靴の専門店がスポーツシューズ、ユニクロがスポーツウェア、ワークマンもキャンプグッズを取り扱っています。これからは、逆にスポーツ小売店も他の市場を狙い、カジュアルシューズやファッションウェア、作業着など、異業種が売っているものを取らないと、プラスにもっていけません。
この先の市場環境を考えた場合、持続的に成長するための施策はいくつかあると思うのですが、1つは静岡県内のシェアをどれだけ高くできるか、地道に努力しています。もう1つは、今回買収したチヨダスポーツさんのように、地元にずっと古くからマーケットを持ち、特に学校やスポーツ少年団との結びつきが強いものの、事業承継が難しくなっているお店をお手伝いする、引き継ぐということも手段だと思います。チヨダスポーツさんは、地元の信頼も厚いお店で、社長さんにも我々のことを信用していただきましたので、試験的な意味もあって買収しました。実際、事業承継に悩んでいるお店から、いくつかM&Aのお話をいただいていますので、続けて考えていきたいと思います。
こうした当社がこれまで弱かった地域の学校とのビジネスと、特定の競技、たとえば卓球や武道系などに特化した専門的分野、この2つは今後展開していく意義があると思います。

スポーピアシラトリ静岡店の東側に、東海地方最大級の室内ゴルフ施設「スポーピアプレミアムゴルフガーデン」と、トレーニングジム「ツタヤコンディショニング」を新設しました。1階のゴルフガーデンは、ゴルフ用品売場と、高解像度カメラでスイング解析などを行い世界中のゴルフコースを体験できるシミュレーター10台を備え、レッスンも受講できます。2階の「ツタヤコンディショニング」は、AIがマシンを自動調整するジムや、ピラティス、ヨガのスタジオがあり、ブックラウンジやカフェも備えています。
新館の狙いは、自分たちの弱い分野の空白を埋めるのが1つです。当社はゴルフのマーケットでは弱者で、ゴルフ用品を扱っているのを知らないお客さんもいます。売場を拡充して集客力を高めるとともに、近隣にゴルフ練習場が少ないこともあって最先端技術を導入して練習需要を取り込めると考えての決断でした。
そして、もうモノを大量に売るのではなく、空間や体験、時間を売ろう、コト消費をやろうというのが2つ目の狙いです。角地で、信号から信号の間がすべて当社の建物となるため、土地を借りることは早くに決まりましたが、700坪以上を使って何をするか。これ以上ただモノを置いて売るとしても、在庫が増えますし、何を売ろうかという悩みもありました。それならば少し違う方向でと考えたのです。
加えて女性です。新たなジムは成長が期待できる女性マーケットをターゲットとしており、マシンピラティスは女性限定として安心して利用できる環境を提供しようと企画しました。
■成長を続けるため守り重視の社内文化を改革
白鳥会長の長女と結婚した当初は、シラトリの社長を引き継ぐとは思っていませんでした。血縁に後継者がいないという状況はわかっていましたが、誰か候補者はいるだろうと。しかし、会長が75歳を超えてきたところで誰もいないということになって、お話をいただきました。ところがちょうどその時、前職の住友商事で海外へ2回目の駐在をする辞令を受けました。2012年から5年間、アメリカに駐在して戻ると、責任のあるポジションを任され、すぐ辞めることができなかったため、3年ほど勤めた後、20年に退職してシラトリに入社したという経緯があります。前職を辞める1年ほど前からは会議に出席して、当社の事業内容を把握しながら引き継いだ感じです。慌しくてはっきり覚えていないのですが、とにかく全然知らない土地で、老舗の会社なので社内のしがらみもあるでしょうし、適応するのも簡単ではないだろうと覚悟はしていました。
前職でオーナー企業や同じようなサイズの会社を見てきましたが、想像通りのところと、イメージとギャップが大きかった部分がありました。静岡でシラトリというと業界No.1企業というイメージがあるので、ブランドに甘えている雰囲気が気になりました。ブランドにあぐらをかいているとまでは感じませんでしたが、どちらかというと、守りしかしていないのだなという印象です。今のマーケットを守ることのみが目的では、少しずつシュリンクしてしまうだろうと想像できました。
静岡の小売業で本当に全国にブランドが浸透している会社はほとんどないのではないでしょうか。静岡県内、さらに言うと静岡の東部だけとか、中部だけで十分商売をやっていけますし、そこだけ守っていれば潰れることはないと考えている会社が多いと思います。全体的にマーケットが大きくなって、みんながプラスになっている状態であれば悪くはないのですが、そういう考え方だけだと、市場が縮小するのがわかっている時代には、自然と売上は減少していきます。そこで社員に問いかけてみました。土地も建物も自社所有だし、この店だけやっていれば絶対潰れないので、それでもいいですよとも言いました。ただし、私は、企業は常にプラス成長を維持しないといけないと考えているので、そんな私に付いてきてくれる人を求めていますといったメッセージを出しました。今まで守りの文化でやってきていましたから、方向転換はなかなか難しく、まだ完全には舵は思う方向に向いていないかもしれませんが、着実に社内に自分の考えを浸透させていきたいと思っています。
今までやったことのないスポーツをやってみたいといつも思っています。この3年間でマラソン、登山、キャンプを始めました。今は、サーフィンとテニスをやってみようかと考えています。
ゴルフは以前からのめり込んでいますが、ゴルフガーデンを作ったので、継続しなければなりません。平均して月に4回程度プレーしており、ベストスコアは78です。妻もゴルフ好きなので2人でプレーすることもありますし、大学院生の娘もゴルフ部だったので3人で行くこともあります。ゴルフガーデンのシミュレーターとレッスンで、家族で腕を磨きたいと思います。

一般財団法人静岡経済研究所「調査月報2024年11月号より転載」