
Column社員コラム

2024年、静岡県をはじめとする日本全国で、中小企業のM&A市場がかつてないほど注目を集めました。コロナ禍後の経済回復を背景に市場が活性化する一方、不適切なマッチングによるトラブルも顕在化し、改めてM&Aを進める上での課題と可能性が浮き彫りになった年でもありました。
2024年の静岡におけるM&A動向を振り返りながら、静銀経営コンサルティングの2025年の展望について、M&Aチームの片山佳祐(写真左)と守野智亮(写真右)が語ります。
目次
可能性とリスク両面で関心が高まるM&Aと静岡県内の動向
守野:「2024年は中小企業のM&A市場にとって大きな転換点」だったと思うのですが、振り返ってみてどうでしたか?
片山:2024年は、中小企業のM&Aに対する注目がかつてないほど高まった年だったと、私も思います。コロナ禍で一時期、市場が停滞していたのは確かですが、2023年から再び活性化していきました。
統計を見ても、過去最高のM&A件数*を記録しましたね。
*2024年1-12月の日本企業のM&A件数は4,700件と、2023年の4,015件から685件、17.1%増加した。
これまで最多だった2022年の4,304件を上回り、最多を更新した。
(引用元:MARR Online「2024年のM&A回顧(2024年1-12月の日本企業のM&A動向)」)
守野:静岡県内でもM&Aへの注目度が高まってきていますよね。お客様からご質問やお問い合わせを頂く機会が増え、関心が高まっていると感じます。
事業承継を目的としたM&Aの他、リソースの拡充や上場企業とのコラボレーション創出など、中小企業の成長戦略にもとづくご相談も多くなりました。全体的に、案件の件数も規模も拡大傾向にある印象です。
片山:その分、中小企業のM&Aによるトラブルも2024年は目立ちましたね。静岡県内でも数件、弊社が関わった事例ではないものの、不適切なマッチングによるトラブルが数件報じられました。リスクやトラブルに対する懸念から、M&Aに対するネガティブな印象が先行してしまっているのは、非常に残念だなと思います。
守野:そうですね。ただ、M&Aに対するネガティブな印象が強まっているからこそ、しずおかフィナンシャルグループの一員である弊社への信頼がより高まっているようにも思います。
実際、M&Aのトラブルが報じられてから「会社の命運を左右する大事な決断だから、安心感のあるしずぎんさんにお願いしたい」とM&Aのご相談をよくいただきます。以前に譲渡をお手伝いさせていただいた経営者様からのご紹介も増えました。
片山:本当にありがたいことです。お客様のご期待にお応えできるよう、M&Aの可能性をより多くの方々にお伝えしていきながら、2025年も静岡を盛り上げていきたいですね。
M&Aで実現した、メーカーと地域をまたぐサプライヤー連携
守野:2024年の振り返りとして、昨年、弊社が関わったM&A案件を振り返ってみたいと思います。印象的な案件はいくつかありましたが、なかでも「静岡・名古屋アライアンス」(2022年4月に静岡銀行と名古屋銀行との間で締結)の一環で成立した第1号M&A案件は、とても意義深い事例だったように思います。
片山:譲渡企業は、切削工具をはじめとする産業機械器具の卸売業として、主に静岡県や愛知県の自動車メーカーやTier1・2サプライヤー向けに事業を展開されていた株式会社古橋様(以下、古橋と表記)。譲受企業が、愛知県を拠点として自動車メーカー向けに機械工具を販売している株式会社MINEZAWA様(以下、MINEZAWAと表記)。
自動車業界の脱炭素化・ 電動化・自動化の世界的な進展を背景に、新たな商材や販路の拡大に加えて、安定的な人材確保や代表者の後継者不在といった古橋様の課題を解決すべく、名古屋銀行さんと連携して、株式譲渡契約の締結までご支援させていただいた事例ですね。
守野:メーカーや地域の垣根を超えたM&Aでしたが、それぞれの地域性や業界特性を理解した上で、双方の企業様の強みを活かすご提案ができたと思います。MINEZAWA様からも「静岡の市場環境や産業動向を事前に詳しく教えてもらえて安心した」というお声を頂きました。
静岡は日本有数の観光地でもあるので、観光業のM&Aも活発ですよね。静岡にホテルや旅館を構えたいというご相談も増えていますし、インバウンドの観光客からの人気も高いので、国内外の投資家から注目されていると感じます。
片山:観光業のM&Aでいえば、2024年9月12日の中日新聞でも取り上げられたサゴーエンタプライズ株式会社様の観光事業譲渡は印象的でした。インバウンド誘致のノウハウを持つ企業に、館山寺温泉の観光ホテル2軒と遊覧船の事業を譲渡する決断をされた案件です。
弊社も譲渡企業のアドバイザーとして関わっていたのですが、地域の観光活性化に向けて、こういったインバウンド誘致を意識したM&Aは今後も増えていくと予想されます。富士山を中心とした観光などではアライアンス先の山梨中央銀行さんと連携して、地域の魅力を高め国内外に発信していく取り組みの一環としてM&Aを通じてもっとサポートしていけたらと思います。
M&Aトラブル増を背景に、しずおかフィナンシャルグループの強みを活かす
守野:中小企業のM&Aによるトラブルが目立つようになった背景についても、2024年を振り返りながら考えていければと思います。2024年6月に中小企業庁からM&Aのトラブルに関する注意喚起が出されましたよね。合わせて、中小M&Aガイドラインが改訂され、2025年1月より登録民間支援機関であるM&A専門業者には改訂に準じた対応が求められるようになりました。
中小企業庁は、中小企業のM&Aトラブルの多くが不適切な譲受企業とのマッチングによるものだとした上で、特に注意すべきケースとして次の2例を挙げています。
- 売手の財務状況が厳しく、経営者保証の扱いが重要になる場合。
- クロージング時点では低額の譲渡対価で、クロージングから一定期間後に相当程度の譲渡対価を支払うという条件を提示されている場合。
片山:こういった中小企業のM&Aトラブルは、譲受企業に対する調査不足や、契約締結までのフォローアップ不足によって生じているように思います。M&A支援事業者の数は、2018年に比べて大幅に伸びており、競争が激化しています*。
*2018年から2023年において、「M&A支援事業者数」は1,176事業者から3,057事業者へと160%増加した。2024年12月段階では2,841事業者となっており、微減している。
(引用元:株式会社M&Aバザール・プレスリリース「M&A支援事業者は増えすぎ?5年でM&A支援事業者数は2.6倍に。一方、国内M&A件数は9%増。」(2024年3月12日)/中小企業庁「別紙2 現在の登録状況について(令和6年12月17日現在)」)
金融機関や税理士のようにM&A支援を専業としていない事業者もいれば、仲介やファイナンシャルアドバイザー(FA)といったM&A専門業者もいて、支援レベルも異なるため、相談相手の見極めが難しいと感じられるケースも多いようです。
守野:弊社は、M&A仲介専門の会社とは異なり、もともと経営課題解決支援・事業計画策定支援コンサルティングも得意とする会社ですから、資金調達から契約締結後の成長戦略まで、一貫した伴走支援ができる点で、お客様から評価いただくことが多々あります。
静岡銀行とは連携しておりますので、経営者保証の扱いも熟知していますし、しずおかフィナンシャルグループのファイナンス機能を活用した企業調査も行っています。長年お付き合いのあるお客様も多いですし、 地域密着型で気軽に相談しやすいと思っていただけていたらうれしいですね。
片山:しずおかフィナンシャルグループの一員ということで、「後継者がいない、先行きが不安といった相談をすると、与信に影響するのではないか」というご心配の声を頂くこともたまにありますね。
質問頂くたびに、「M&Aは事業承継を通じた成長戦略のごく当たり前の選択肢の1つであり、与信には全く影響しませんのでご安心ください」とお伝えしています。
そういったご質問を率直にいただけること自体がありがたいですし、不安なことがあれば何でも遠慮なく聞いていただけるような関係性を、これからもお客様と築いていきたいと思います。
「地域密着型の成長戦略支援」をテーマに、M&A支援を強化
守野:最後に2025年からの展望を語って締めくくりたいと思いますが、静銀経営コンサルティングの今年のテーマを一言で表すなら何になりますか?
片山:「地域密着型の成長戦略支援」。これに尽きるのではないかと思います。地域に根ざしたM&Aの推進を通じて、大手企業や他地域の企業との連携によって、地元企業がさらに成長していける仕組みを構築できるようにご支援していきたいです。
自動車業界大手のホンダと日産自動車が経営統合に向けて協議に入ったと、2024年12月23日に発表されました。自動車業界自体が大きく動く中で、サプライヤーの再編も今後進んでいくと予想されますので、弊社でも積極的なご提案ができたらと考えています。
あとは、静銀経営コンサルティングで近年力を入れている「PMI(Post Merger Integration:統合後のプロセス)」の支援もより強化していきたいですね。M&Aの契約を締結して終わりではなく、統合後の新たな体制でもお客様をしっかりサポートできるように今年も取り組んでいきたいと思います。
片山:最近の動向でいうと、地方企業への投資を強化するPEファンドが増え、お客様がPEファンドと連携することがより一般的になったと感じます。
(参考:MARR Online「日本企業に対する投資会社のM&A バイアウト系の動向」205件で最多更新。事業承継5割超」)
しずおかフィナンシャルグループの中にも、静岡キャピタルという投資専門会社があり、PEファンドでの事業承継投資にも力を入れています。同じグループの強みを活かし、お客様の課題に応じて適切なご提案ができるように、引き続き励んでいきたいですね。
守野:その他、今年度の課題としては、静銀経営コンサルティングならではのM&Aに関する知見をもっと発信していけたらと思っています。M&Aに対する中小企業の「心理的なハードル」はまだまだ高いと感じますし、だからこそ正しい知識と適切な認識を広げていく必要があると思うのです。
片山:特にM&Aの「売却」については、「失敗」「後退」といったネガティブな印象が根強いです。そのため、M&Aが有用な状況であっても、検討すらされないケースも相当数あるように見受けられます。
実際、弊社が関わった過去の事例でも、「譲渡」という言葉に抵抗を示す経営者の方は一定数いらっしゃいました。 しかし、企業の現状や課題、そして価値観やビジョンなどを丁寧に伺った上で「事業をさらに成長させていく手段としてのM&A」であることをお伝えすると、前向きに取り組んでくださることも多くあります。
M&Aは事業承継や企業の成長に貢献できる「攻めの選択肢」として有用な手段だと思います。地域のために、企業のために、そして従業員の方々のために「M&Aは“当たり前”の選択肢の一つである」。そんな意識をより浸透させていきたいですね。