Column社員コラム
M&Aチームの片山佳祐です。
2024年は中小企業M&Aが過熱する一方で、M&Aを巡るトラブルが新聞や週刊誌などのメディアで特集されるなど、私たちM&A支援機関にとっても中小企業M&Aの在り方を考えさせられる1年となりました。
M&Aは不確定要素の多い戦略であるがゆえ、適切なM&A専門業者を有効活用できれば、M&Aの成功可能性を高め、またM&A後のトラブルを避けることにつながります。
中小企業庁でも、最近時の中小企業M&Aを巡るトラブルに対応するために、M&A専門業者の行動指針を定めた中小M&Aガイドラインの第3版改定を行っております(引用:中小M&Aガイドライン | 中小企業庁)。この改定に伴い、M&A支援機関2,766先(2024年8月20日現在)は、2025年1月からそのガイドラインに準じた対応が求められることになります。
中小M&Aガイドライン第3版では、M&A専門業者の選定における考慮要素として、「手数料に関する事項」と「提供される業務に関する事項」を定めております。そこで今回は、ガイドラインに規定されたその2点のポイントに注目し、専門業者の選び方について解説していきたいと思います。
1手数料に関する事項
中小企業庁は、2024年度のM&A支援機関の登録要件として、手数料算定基準の開示を追加しました。現在、登録されている専門業者(仲介業者、FA業者)の手数料体系は中小企業庁のホームページ上のデータベース(引用:登録支援機関データベース | M&A支援機関登録制度)で検索することができます。
M&A専門業者には、それぞれ得意とする活動領域やM&A案件の規模があります。詳しくは専門業者の説明を聞かないと分からないこともありますが、手数料の仕組みを見れば、専門業者の対象とする企業像をある程度を見極めることができます。
① 成功報酬
M&A専門業者の最低報酬額は、データベースから確認することができますので、最低限どの程度の報酬が必要になるか、まず確認することをおすすめします。あわせて上場しているM&A専門業者であれば、1件あたり平均の成功報酬額をIR資料から確認することができます。ただし、専門業者によって基準が異なり分かりにくいこともありますので、どの専門業者にも直接確認してみるとよろしいかと思います。
自社の企業価値から算定される成功報酬が、M&A専門会社の最低報酬額や1件あたりの平均の成功報酬額と比較して低い場合には、M&A専門会社にとっては、重点をおいていない規模の会社として認識しているかもしれません。反対に、自社にあてはめた成功報酬が高い場合には、そのM&A専門業者にとって不得手な規模の可能性があります。
② 着手金や中間金
M&A専門業者には、着手金や中間金を手数料として収受する業者とそうでない業者があり、その体系についてもデータベースで確認することができます(ちなみに弊社は着手金や中間金を収受しております)。一般的に、着手金や中間金を収受しない会社は、M&A案件の数を増やすことに注力しており、一方、着手金や中間金を収受する会社は、M&A案件の成約を重視していると言われています。
どちらのアプローチにも一長一短がありますが、個人的には、着手金や中間金の有無ではなく、M&Aの仲介契約やFA契約を締結した企業のうち最終的にM&Aが実現した企業がどの程度あるかの実績(成約率)が重要だと考えています。着手金や中間金の有無に関係なく、M&Aが実現しないのでは元も子もありません。成約に至る割合(成約率)は、データベースでは確認できませんので、M&A専門業者に直接問い合わせすることをお勧めします。上場しているM&A専門業者であれば、IR情報に受託件数や成約件数を開示していますので、そこから情報を得ることも可能です。ただし、件数のカウント基準が異なることもありますので、比較検討するのであれば直接確認することが望ましいでしょう。
③ 譲渡企業と譲受企業への業務内容や手数料体系の差異
M&A専門業者の中には、譲渡企業と譲受企業では提供する業務内容や手数料体系が異なる業者もあります。中小M&Aガイドラインの第3版改定で、プロセスごとの提供業務の具体的な説明や、専門業者が仲介者となる場合は、相手方(例えばM&A専門業者が譲受企業についている場合であれば譲渡企業側)から収受する手数料の明示が求められることになりました。特に、譲渡企業と譲受企業で手数料が異なる場合には、その違いが仲介者の中立性・公平性に影響が生じないかどうかをM&A専門業者に確認することをお勧めします。
2提供される業務に関する事項
これまで、M&A専門業者の手数料をもとに専門業者が自社に適しているかどうかを解説してきました。次に、提供される業務に関する事項のうち、中小M&Aガイドラインの改定のポイントとなる業務の質について以下2つの観点から説明していきます。
① 担当者の専門的知見
M&A専門業者には、業務の質の考慮要素として、担当者の保有資格(例えば、公認会計士、税理士、中小企業診断士、弁護士など)、M&A業務の経験年数、M&A業務の成約実績について説明することが求められるようになりました。担当者としてM&Aに関して適切な支援を行うには、個人差はあるものの、少なくても10件程度の成約実績が必要だと思います。担当者の経験が浅い場合には、M&A業者に対して複数名での取り組みを依頼し、他の担当者の成約実績や支援体制(案件への関与度合)を確認することが重要になります。
また、自社の属する業界・業種の成約実積もあわせて確認することが望ましいと考えます。自社の属する業種に精通していれば、M&Aに関するトラブルを未然に防ぐことができます。
② M&A専門業者のネットワーク
中小M&Aガイドライン第3版改定では、新たに「広告・営業の停止」、「広告・営業の禁止」が明記されました。
【広告・営業の停止】
- M&Aの実施意向がない旨、仲介契約・FA契約を締結しない旨又は広告・営業を受けることを希望しない旨の意思(停止意思)を表示された場合、これを拒んではならず、ただちに広告・営業を停止しなければならない。
【広告・営業の禁止】
- 仲介者・FAの名称、勧誘を行う者の氏名、当該契約の締結について勧誘する目的である旨を告げずに行う広告・営業。
- 仲介・FA締結を締結し、M&Aを実施しようとするか否かの意思決定の上で必要な時間を与えず、即時の判断を迫る広告・営業。
- M&Aの成立の可能性や条件等の仲介・FA契約を締結し、M&Aを実施しようとするか否かの意思決定に影響を及ぼす事項について、虚偽若しくは事実に相違する又は誤認を招くような広告・営業。
電話やダイレクトメールでのアプローチに一定の制限が課されることになったことから、自社がM&Aで希望する相手先企業にアプローチすることができるかどうかも今後は重要な判断材料となります。M&A専門業者が相手先企業に直接アプローチすることが難しい場合は、専門業者が(相手先企業にアプローチする)有効なネットワークを有しているかがポイントになりますので、M&A専門業者に確認することをお勧めします。
以上、中小M&Aガイドラインの改定に伴う専門業者の選定のポイントについて、解説してきました。
中小M&Aガイドラインの改定では、他にも中小企業がM&Aによるトラブルに巻き込まれないようM&A専門業者に求められる行動や説明すべき事項が新たに設けられております。専門業者の選定に関わらずご不明な点がございましたら、静銀経営コンサルティングにご相談ください。