Column社員コラム



はじめに

令和8年度税制改正は、法人の投資判断や日々の経理実務に直結する変更が複数含まれます。 特に、設備投資を後押しする新たな枠組み、インボイスの経過措置の段階的な見直し等は資金繰り・粗利・社内フローに影響が出やすい部分です。

加えて、個人所得課税では「極めて高い水準の所得」に関する見直しが示されており、多くの中小企業経営者にとって通常年の影響は限定的である一方、自社株の譲渡やM&A、退職金、資産売却などで所得が一時的に大きくなる年には、税負担の見込みに影響し得ます。

本記事では、設備投資、研究開発、賃上げ関連、インボイス、個人所得課税について、適用時期と実務上の押さえどころに絞って整理します。

目次

改正のポイント 経営判断に直結しやすい論点

令和8年度税制改正は、投資を促す法人税制、インボイス対応の経過措置、そして個人所得課税の見直しなどが柱です。
中小企業の経営者としては、「自社に該当するか、関係があるか」を早期に見分けることが重要になります。

まず、設備投資については、単発の設備購入ではなく「投資計画」として要件を満たす場合に、即時償却や税額控除の選択肢が広がる点が特徴です。
次に、インボイスは制度導入後も“経過措置が段階的に動く”ため、請求・仕入・経理の実務が止まらないように期限と割合の管理が欠かせません。
個人所得課税の見直しは富裕層向けに見えますが、オーナー経営者はM&Aや株式譲渡、退職金などで特定年に所得が大きくなることがあり、その年の税負担見込みに影響し得ます。


法人課税:大胆な設備投資の促進措置


制度の骨格(即時償却もしくは税額控除)

一定の投資計画について、要件に適合し所定の確認を受けた場合、対象設備等の取得に関して即時償却または税額控除を選べる枠組みが示されています。
税額控除は取得価額の7%(建物・建物附属設備・構築物は4%)で、控除上限は当期法人税額の20%です。

ここで重要なのは「税額控除がある=得」という単純な話ではない点です。
利益計画(法人税の発生見込み)によっては控除の効き方が変わります。
意思決定の段階で、即時償却と税額控除を並べて試算し、キャッシュフローに最も合う形を選ぶ設計が現実的です。


要件

主な要件は、次の2つが分かりやすい判定軸です。

1つ目は投資規模です。
投資計画期間中の取得価額合計が原則35億円以上(中小企業者等は5億円以上)とされています。単年の購入額ではなく、計画期間の総額で見る点に注意が必要です。

2つ目は収益性です。
投資計画における年平均の投資利益率(ROI)が15%以上となる見込み等が要件として示されています。更新投資でも、歩留まり改善や省人化、停止時間短縮などを数値化し、「計画として説明できるか」が鍵になります。


手続と期限

本措置は、基準への適合について所定の確認を受けた投資計画が前提であり、さらに令和11年3月31日までに確認を受けたものが対象、確認日から5年以内に取得等し事業供用した設備等に適用される整理です。
実務では、確認取得までのリードタイム、発注・納期、検収、供用開始のズレが生じると適用可否に直撃します。
税制の適用を前提に投資を組むなら、稟議・資金手当・取得時期を工程表で管理しておくことが安全です。

消費課税:インボイス経過措置の見直し


2割特例の適用期間

国税庁の案内では、2割特例の適用期間は令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間とされています。
この期限をまたいで資金繰りや粗利設計をしている場合は、前提条件の再点検が必要になります。


2割特例終了後:個人事業者の「3割」措置

2割特例の終了後も、個人事業者について納税額を売上税額の3割とできる措置を2年(令和9年・令和10年分)に限り講ずるとされています。
中小企業側としては、自社が適用するというより、外注先・仕入先に個人事業者が多い場合に、相手側の事務負担や価格交渉の論点が増えやすい点を押さえると実務が滑らかになります。


免税事業者からの仕入れ 控除割合と上限(1億円)の見直し

免税事業者からの仕入れに係る経過措置は、控除割合を段階的に引き下げられます。
具体的には、令和8年10月:7割 ⇒ 令和10年10月:5割 ⇒ 令和12年10月〜令和13年9月末:3割と引き下げられる予定です。
さらに、1免税事業者ごとの年間適用上限仕入額を1億円(現行10億円)へ引き下げる点も示されています。

ここは制度理解より運用設計が勝負です。
取引先を「課税・免税・個人事業者」で棚卸しし、請求書の受領・保存、会計ソフトの入力ルール、締め処理を、切替時期に合わせて更新しておくことが重要です。

個人所得課税:必須の見直し(高所得の適正化)

「個人所得課税」には、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の見直しが掲げられています。
内容としては、税負担の公平性確保の観点から、追加の税負担を計算する基礎となる基準所得金額から控除する特別控除額を1億6,500万円(現行:3億3,000万円)へ引き下げ、あわせて税率を30%(現行:22.5%)へ引き上げる、というものです。

オーナー経営者は、株式譲渡、M&A、資産売却、役員退職金などにより所得が一時的に大きくなる年があります。
こうしたイベント年は、税負担見込みと手元資金計画が経営判断に直結するため、条文化・適用時期の確定を踏まえつつ、必要に応じて事前試算でリスクを見える化しておくのが現実的です。

実務のポイント:社内が詰まりやすい箇所だけ先回りする


設備投資

設備投資は、投資総額(計画期間合計)とROIの根拠資料が弱いと、確認手続や社内稟議が長引きやすくなります。
投資効果の算定ロジック、対象資産の区分(建物等は控除率が異なる)、取得・供用のスケジュールを、申告段階ではなく意思決定段階で固めることが重要です。


インボイス

インボイスは、期限と割合が段階的に動くため、年度をまたぐ運用変更が発生します。
経理部門だけで抱えず、購買・現場・外注管理を含めて、取引先区分の棚卸しと、請求書・証憑のルール更新を早めに行うと、切替期の混乱を抑えられます。


個人所得課税

個人所得課税は「毎年の給与所得」ではなく、特定の年に所得が大きくなる局面で実務インパクトが出やすい領域です。
株式譲渡、M&Aのクロージング、資産売却、役員退職金の支給などは、実行時期によって“どの年分に乗るか”が変わり、税負担見込みと手元資金に直結します。
社内で押さえるべきポイントは、①想定イベントの有無と時期、②所得の種類(譲渡・退職・配当等)と申告要否、③資金繰り(納税資金の確保)の3点です。
意思決定前に「年分」「概算税額」「資金手当」をセットで整理しておくのが実務上安全です。




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