Column社員コラム

はじめに 事業承継に「まだ早い」はありません
「事業承継」と聞くと、「まだまだ先の話」「まだ元気だから大丈夫」と考える経営者の方は多いかもしれません。
しかし、多くの企業が直面する大きな課題の一つが、この事業承継です。
帝国データバンクの調査によると、日本の中小企業の約55%が後継者不在という課題を抱えています※1。
この数字は、全国の中小企業350万社のうち、200万社以上が「誰にバトンを渡すか決まっていない」状態であることを意味します。
※1 出典: 2024年版 中小企業白書
後継者不在や準備不足によって、長年培ってきた事業をたたまざるを得ないケースも少なくありません。
現実に、「後継者難による廃業」の件数はコロナ禍以降5年連続で増加傾向にあります。※2
長年培ってきた事業や雇用、地域経済への貢献が失われるのは、経営者だけでなく従業員や取引先、地域社会にとっても大きな損失です。
※2 出典:TSRデータインサイト「2024年の「後継者難」倒産 過去最多の462件 建設業、サービス業他など労働集約型が上位に」より
では、一体いつから事業承継を検討し、準備を始めるのが理想的なのでしょうか?
結論から申し上げると、いつ始めても「まだ早い」ということは決してありません。
むしろ、準備期間が長ければ長いほど、円滑で円満な承継を実現できる可能性が高まります。
この記事では、事業承継を検討すべき具体的な時期と、後悔しないためのポイントについて、詳しく解説していきます。
目次
事業承継を検討すべき「具体的な時期」とは
早速、具体的にどのような時期に事業承継を検討すべきなのか見ていきましょう。
ここでは、経営者の年齢と企業の事業サイクルの2つの観点から解説します。
①経営者の年齢から考える理想的な時期
多くの経営者が事業承継を本格的に検討し始めるのは60歳前後と言われています。
これは、経営の一線から退く時期が現実味を帯びてくるからです。
理想的な準備期間を確保するためには、引退したい年齢から逆算して、10年以上前には承継について考え始めるべきでしょう。特に中小企業では経営者に営業、ノウハウが蓄積しているというケースが多く、一朝一夕に、自身のノウハウを承継する事はできません。
例えば、70歳で引退を希望するのであれば、遅くとも60歳までには後継者候補の選定や、事業承継計画の策定に着手することが重要です。
②企業の「事業サイクル」から考える時期
企業の事業サイクルも、事業承継の時期を考える上で重要な要素です。
業績が好調な時期は事業承継のチャンスと言えます。
しかし、業績が不調な時期でも、事業承継は避けて通れない課題です。
親族内承継、従業員承継に加え、第三者への承継(M&A)という選択肢を含めて、外部環境の変化や業界の動向を常に注視し、最適なタイミングを見極めることが求められます。
事業承継を「今すぐ」検討すべき3つの理由
先の章では、事業承継を検討すべき具体的な時期について言及いたしました。
しかし、冒頭で述べた通り、事業承継の準備・検討に「早すぎる」ということはありません。
事業承継の準備を後回しにすることで、将来の経営に深刻な課題をもたらす可能性があります。
ここでは、なぜ今すぐ事業承継の準備を始めるべきなのか、その3つの重要な理由を見ていきましょう。
理由1:円滑な引き継ぎには最低でも5~10年の期間が必要
事業承継は、単に後継者に経営者の座を譲るだけではありません。
自社株式や事業用資産の承継、従業員や取引先との関係構築、そして何よりも後継者の育成には、非常に長い時間が必要です。
理想的な後継者を育て、経営者としてのスキルや経験を継承させるためには、5年~10年の期間を見積もっておくべきです。
この準備期間が短いと、後継者が十分な経営力を身につけられず、承継後の事業継続が危ぶまれる事態に陥るリスクが高まります。
第三者への承継(M&A)でも相応の引継ぎ期間を求められます。
理由2:経営者自身の「健康状態」という不確定要素
「自分はまだまだ元気だ」と思っていても、人間はいつ何が起こるか分かりません。
病気やケガで突然経営を継続できなくなる可能性もゼロではありません。
もし事業承継の準備ができていない状態で経営者が倒れてしまった場合、事業の存続そのものが危うくなる可能性があります。
日頃から元気なうちに事業承継の計画を立てておくことが、万が一の事態に備える最善の策と言えるでしょう。事業承継には、思ったよりも気力・体力が必要というのも事実です。
理由3:事業承継のタイミング
事業承継は、企業の業績が好調な時期に行うのが理想的です。
業績が安定している、または成長期にある時期に承継することで、後継者は有利な状況で経営を引き継ぐことができます。
逆に、業績が悪化してから事業承継を検討すると、将来への不安や、事業の継続性の観点から、後継者への承継が困難になる場合があります。
事業が好調な時期に承継を計画することで、円滑な承継だけでなく、後継者や従業員のモチベーション維持にも繋がります。
後悔しないための4つのステップ 事業承継の進め方
事業承継の検討を始めたとしても、「何から手をつければいいか分からない」という方も多いでしょう。
ここでは、事業承継を円滑に進めるための4つのステップを紹介します。
ステップ1:現状分析と後継者を明確化
まずは、自社の現状分析から始めましょう。
自社の強み、弱み、財務状況、借入金の状況などを客観的に見つめ直します。
中小企業庁や経済産業省がリリースしている「事業承継診断シート」や「ローカルベンチマーク(ロカベン)シート」などが現状を整理するために利用できる公的なツールです。
「事業承継診断シート」では、そもそも後継者候補はいるのか、後継者候補には了承をとれているのかを改めて見つめなおす機会となり、「ローカルベンチーマークシート」では、自社の経営状態、経営課題を明確化する事に役立ちます。
言語化できていない課題を言語化し、現状と後継者を明確にすることが事業承継の第一歩となります。
ステップ2:相談先選定
事業承継は一生に1回。自分だけで考えても明確にならない事も多いです。
そのような時は身近にいる信頼できる相手に相談しましょう。
相談するといっても、事業承継については、センシティブな内容となり、取引先等に気軽に話ができる内容ではないと思います。
そこで一般的に相談先として選ばれるのは、取引金融機関、士業(顧問)、事業承継・引継ぎ支援センター(公的機関)です。
基本的には、守秘義務を負っている相談先かつ、他社事例も良く把握している点でも、相談相手として適しています。
事業承継に関して書籍等も発刊され、セミナーもさまざまな機関で開催されていますが、上記記載の相談先と1対1で壁打ちすることにより見えてくること、改めて気づいたというお声も多く聞こえてきます。
ステップ3:事業承継計画の策定
自社の現状とリスク等の把握・分析を基に中長期的な方向性・目標を設定しましょう。
例えば10年後に向けて、自社の経営資源(人・モノ・金・情報)を活用し既往領域で拡大していくのか、新規領域、新事業へ挑戦するのかといったイメージを描く必要があります。
ステップ1で後継者が明確になっているのであれば、現経営者と、後継者、従業員を含めて意識を共有することが重要です。
逆に、後継者が決まっていないのであれば、自社の状況にあった譲り受け先を探すために、信頼できる相談相手(金融機関、士業、公的機関)に相談しましょう。
ステップ4:事業承継・M&Aの実行
各ステップを踏まえ、把握された課題を解消しつつ、事業承継計画や、M&A手続等に沿って、資産(株式や負債)の移転や、経営(代表者)の権限を移譲していきます。
実行段階において、経営状況や、環境の変化を踏まえ随時計画の変更、修正、ブラッシュアップする事も必要です。
まとめ 事業承継は「未来への投資」
いかがでしたか?
事業承継は、経営者の引退のための準備であると同時に、自社の未来を築くための重要な投資です。
「いつから始めるべきか?」という問いに対する答えは、「今」から始め、「計画的」に進めること。「今」から始める事で、自身の理想に近い形での事業承継を実現できます。
漠然とした不安を解消し、円滑な承継を実現するためにも、まずは専門家へ相談してみることをお勧めします。
長年築き上げてきた大切な事業を、後継者と共に次の世代へと繋いでいきましょう。