
Column社員コラム

EV化や自動運転技術の発展により、自動車産業は「100年に1度の大変革期」を迎えています。従来のエンジン部品やトランスミッション関連部品の需要はすでに縮小傾向にあり、今後さらに加速する見通しです。
さらに、2025年2月にはホンダと日産の経営統合に向けた交渉が破談となり大手企業でさえ連携が難しい現状が明らかになりました。このような状況下で、静岡のサプライヤーはどのように変革と向き合っていくべきなのでしょうか。
今回は、M&Aチームの片山佳祐と自動車業界担当の目崎裕亮に加え、静岡銀行産業変革支援プロジェクトチーム(以下、産業変革支援PT)の藤森学担当部長と山本真也氏を迎え、自動車業界の変革と静岡県内サプライヤーの成長戦略について語りました。
目次
産業変革支援PTの取り組みと静岡銀行のサプライヤー支援
藤森氏:最初に自己紹介を兼ねて、静岡銀行の産業変革支援PTについて簡単に説明します。CASEの進展等、自動車業界が大きな転換期を迎えている中、サプライヤーのお取引先をご支援するために、2022年4月に当チームを発足し、これまで活動を展開してきました。
山本氏:具体的には、行内外の様々な部署・知見機関と連携しながら、経営改善、M&A・事業承継、販路開拓や異業種との連携などの支援に取り組んでいます。特にM&Aについては、事業承継の手法としてはもちろんのこと、成長戦略を実現するための選択肢としてもご提案する機会が増えています。
藤森氏:また、サプライヤー支援を加速させるため、2022年4月に名古屋銀行と「静岡・名古屋アライアンス」を締結。さらに2023年8月には、山形銀行、足利銀行、群馬銀行、横浜銀行、名古屋銀行、広島銀行とも連携体制を構築し、各行が地盤とする地域の自動車業界の動向や各行が保有する知見・ノウハウの共有により、自動車産業支援の取り組みの高度化を図ってきました。
ホンダ・日産の経営統合交渉破談が示す企業連携の難しさ
目崎:自動車業界の動向としては、直近2025年2月にホンダと日産の経営統合交渉の協議が打ち切られ、破談になりました。
山本氏:一昔前なら、ホンダと日産が経営統合する話自体、考えられなかったでしょう。そのくらい、自動車業界の変革は大きく進んでいて、もはや従来の常識は通用しなくなっているのだと感じられました。
片山:ホンダと日産の経営統合交渉が破談になった理由は、経営方針の違いだけでなく、感情面のすれ違いもあったと報道されています。上場企業であってもロジックで意思決定することの難しさが露呈した案件だったと感じます。企業同士が手を取り合う際、関わる人の「感情」の問題は切っても切り離せません。これは中小企業のM&Aでも全く同様で、ロジックだけでは人は動きません。ライバル企業同士が再編を行う場合は特に、お互いが大義を持ち、同じ未来を共有することが不可欠です。

写真左から:静岡銀行産業変革支援PT 藤森学担当部長、同 山本真也氏、静銀経営コンサルティング 片山佳祐、同 目崎裕亮
経営基盤の見直しと海外を意識した展開づくりの重要性
目崎:外部環境に左右されない自社の強みをどう伸ばしていくかという点も大切だと思います。たとえばEVシフトがさらに進めば、エンジンやトランスミッション関連の部品だけを製造していたサプライヤーは事業の見直しを迫られます。現在の強みや企業として目指す姿を明確にした上で、EV関連もしくは別業界の販路開拓が必要になるでしょう。
藤森氏:販路開拓はもちろん大切ですが、「次の打ち手」への原資捻出のため、コスト競争力の強化も必要となってきます。私どもの部署では、取引先事業の現状分析をさせて頂くなかで、製造部品ごとの採算可視化等にも取り組んでおります。
目崎:実際に最近時、2・4輪のトランスミッション、エンジンなどの部品を製造する県内企業が、インドの自動車部品大手の傘下となるニュースが報じられました。激変する自動車業界の動向に対応するために、自動車を中心に幅広い事業を展開しているインド企業と組むことで、技術力を生かす戦略を取った事例です。
藤森氏:販路開拓に関しても、今後、外資の部品メーカーを交えた競争に打ち勝つためにも、グローバルを意識した展開も必要だと思いますし、先程述べた原価管理や採算管理の徹底に加えて、組織体制づくりや財務関係の整理といった既存事業基盤の強化にも速やかに取り組んでいく必要があると思います。
サプライヤーの未来戦略:基盤の強化と取りうる選択肢
目崎:成長戦略や事業承継の対策としてM&Aを検討する企業が増えています。そういった場合も、買い手企業はきちんと設備や人に投資してきたかを調べますし、基盤がしっかりしている企業であれば高い評価を得やすくなります。
片山:製造業の場合、メーカー・サプライヤー間の取引基盤が特に重視されます。M&A成立後も取引関係を継続するためには、メーカーや取引先に対して、なぜそのM&Aの検討に至ったのか、将来的な生産計画や展望も含め、十分な説明が必要です。そのため、一般的なM&Aに比べて引き継ぎ期間も年単位で長くなりますし、売り手企業と買い手企業間の信頼関係が他業界以上に問われます
目崎:過去にあったM&Aの成功事例を見ても、そういった情報の共有により生産計画を事前にすり合わせ、メーカーに対する部品供給をスムーズに承継することができたケースがありました。
片山:M&Aのほかにも、業務提携や少額の出資といった選択肢を検討されている経営者の方もいらっしゃると思います。業務提携に関しては、お互いが本気になりきれない部分があり、結果として掛け声倒れで終わってしまうケースも少なくありません。そのため、サプライヤー同士で再編するのであれば、M&Aや資本提携を絡めた取引を前提に進める方が望ましい結果になりやすいと思います。ただ、自動車のサプライヤーが非自動車分野に進出するケースや、最近増えているスタートアップ企業との連携であれば、業務提携や少額の出資といった形で、まずは取引をスタートさせるのも1つの選択肢でしょう。
金融機関の中立の立場を活かしたサプライヤーへの伴走支援
山本氏:いずれにしても、まず自社が「どうなりたいのか」「どうありたいのか」を明確にした上で、現状とのギャップを知ることから始まります。課題が見えたら、後は行動あるのみ。とにかく時代の変化が早いですから、どのような状態でも悩みをひとりで抱え込まずに、まずは現状把握から一緒に進めていくところからお力になれたらと思います。
藤森氏:少子高齢化が進む中で、人手不足もますます深刻化していきます。IT導入やDX化の対応も間違いなく必要になってくるでしょう。変化の激しい時代をチャンスと捉え、経営のあり方を基盤から見直していけば、市場を勝ち抜く競争力を身につけられるはずです。私たち静岡銀行や静銀経営コンサルティングの皆さんも、お客様のために汗をかくことを惜しみません。どんな小さなことでも、気兼ねなく相談に来ていただきたいですね。
目崎:外部環境が刻々と変化し続ける今、「現状維持=企業の衰退」といっても過言ではないでしょう。変化を恐れることなく、新しい市場や技術に挑戦し続けていくことは決して容易ではありません。だからこそ、私たちのような外部機関を上手く利用していただき、状況に合わせて、他社との連携やM&Aといった選択肢を前向きに検討いただけたらと思います。
片山:静岡の自動車業界は、メーカーの垣根を超えた再編を検討する段階に入っています。しかし、メーカーやサプライヤー同士が直接交渉を進めるのは、これまでのしがらみもあり、ハードルが高いのも事実です。私たちのような金融機関は、中立の立場にいるからこそ、業界の変革を支援するフラットな提案ができると思います。M&Aに限らず他社との提携や事業の再編を少しでもお考えの方がいらっしゃれば、お気軽にお声がけください。
