Consulting ServiceM&Aコンサルティング事例

江戸時代から続く商社が異業種間M&Aを決断。
廃業寸前からの再スタートに「面白いことをやりたい」
譲渡企業 

有限会社ヘリヤ商会

代表者名: 谷本宏太郎様

事業内容: お茶を中心とする輸出入業

譲受企業 

磐栄ホールディングス株式会社

代表者名: 村田裕之様

事業内容: 運送業、一次産業

M&Aの進行スケジュール

初回面談日: 2021/12/7

コンサルティング契約日: 2022/1/6

TOP面談: 2022/3/9

最終契約: 2022/9/21

静岡県静岡市のヘリヤ商会は、2022年9月、磐栄ホールティングスと株式譲渡契約を締結しました。ヘリヤ商会の前身であるオルト商会は1853年に長崎で創業。1974年から現在のヘリヤ商会として法人化し、日本茶の輸出入を主事業としてきました。市場の変化に応じてあらゆるジャンルの商品を取り扱う商社へと転身してきたものの、後継者問題を抱え廃業を検討していたそう。静銀経営コンサルティング(以下SMC)からの提案でM&Aを実現させました。譲受企業は福島県いわき市の磐栄ホールディングス。総合物流を主事業とし、近年は特に一次産業分野に参入し、レタスや日本酒の製造販売など異業種間M&Aの成功事例を数多く作っています。ヘリヤ商会がM&Aを決意した理由や谷本社長が感じる変化をインタビューしました。

M&Aよりも廃業の方が現実的だった

貴社の事業について概要をお教えいただけますでしょうか。

谷本社長(以下敬称略): ヘリヤ商会の前身は江戸時代、日本茶に魅了されたイギリス人によって創設されました。一時はアメリカに本社を移したり世界数カ国に工場を構えるなどかなり大規模なビジネスをしていたようです。しかし第二次世界大戦を機に日本工場からは撤退。残された従業員が工場を引き継ぎ、日本法人として再スタートさせました。それが私の祖先にあたります。

80年代には、安価な中国茶の登場で日本茶の競争力が落ちたことから、お茶以外の商材も取り扱うようになりました。海外の家具やクリスマスオーナメント、付け爪など、幅広いジャンルで開発輸入をしましたね。私自身は「お茶屋さん」よりも「輸入コンサル」という肩書きがしっくりきます。本当にたくさんの国に行ったし、いろんな人と出会いました。各国の情勢やトレンドに広く興味をもって、ビジネスに繋がるきっかけを探していました。

いろいろなことに果敢にチャレンジしてきたのですね。かつては廃業を考えていらっしゃったとのことですが、理由をお話しいただけますでしょうか。

谷本: 近年、日本茶の輸出規模は年々上昇しており、業界全体で見ると盛り上がっているように見えるかもしれません。しかし個人商店規模の業者にとっては利益を出し続けることが難しく、毎年2割の業者が統廃合によって消失しています。深い歴史や、世界中とのコネクションをここで途絶えさせていいのかという葛藤はありました。しかしこんな小さな会社を娘たちに無理についでもらうのは忍びないと思ったし、任せられる社員にも出会えていませんでした。

M&Aも選択肢の一つではありましたが、ヘリヤ商会のような小規模な会社を買ってくれる会社があるとは思っていなかったんです。ですから廃業が最も現実的な選択肢だと思い込んでいました。

廃業が現実的だと感じながらも、踏み切れなかった理由はあるのでしょうか。

谷本: ある時、お茶の歴史にまつわる講演をしてほしいと頼まれました。資料作成のために昔の文書などを改めて眺めていたら、希少性の高い資料がたくさん見つかったんです。その中の一つが、1930~40年ごろに電信でコミュニケーションをとっていた頃のコードブックです。商業通信用語や定型文を6文字コード化したコードブックばかりか、ヘリヤ商会専用のコードブックも見つかりました。

古い資料を眺めていると、「こんな歴史のある会社を畳んでしまっていいのだろうか」という気持ちが強まっていきました。でも私はいつまで働けるかわからないし、誰かに任せることも出来ない。どうしたら会社を残せるかわからないまま、すっきりしない気持ちで過ごしていました。

電報コードの一覧が記された本。右上はヘリヤ商会専用のコードリスト。
M&Aには最初から前向きでいらっしゃったのでしょうか。

谷本: M&Aをした同業者や、提案を持ちかけてくれる仲介業者はたくさんいました。身近には感じていたものの、あまりいいイメージではなかったですね。会社を譲った後にもしうまくいかなかったら、すぐに手放されちゃうんじゃないか。そうすると従業員やお取引先に多大なるご迷惑をおかけしてしまう。そんな事態になるのは嫌だと思っていました。譲り受けたいと申し出てくれる企業が見つかったとしても、誰でもいいわけではありません。製茶業界特有の利害関係があるので、同業者には譲りたくないと思っていました。

M&Aに踏み切れた理由をお教えください。

谷本: SMCからヒヤリングを受けたことで、自分自身が会社をどうしたいのか、明確に自覚できるようになっていきました。あえて人に相談をする必要はないと思っていたけれど、いざ話してみると自社が持つ可能性を客観的に見ることができて。もしかすると、納得いく形でM&Aができるんじゃないかと希望を持てました。

すでにいくつかの金融機関や会計事務所からもM&Aの案内は受けていましたが、SMCは契約前からよく動いてくれました。2回目の打ち合わせの際、「譲るならこんな会社にお譲りしたい」ということをあらかたお伝えしたんです。すると数日後には5社程度、譲り先候補を出してくださいました。異業種かつ県外の会社を探して欲しいというオーダーをクリアできるSMCのネットワークに驚きました。実際にどういう会社がヘリヤ商会に興味を持ってくれるのかがわかったことで、決断しやすくなったと思います。

「もっと面白いことを」という意欲に満ち溢れる理由

谷本社長が譲り先としてお選びになったのは、運送業を主な事業とし、福島県いわき市に本社を構える磐栄ホールディングスです。ここなら会社を任せられるとお考えになった理由をお話しいただけますか?

谷本: 磐栄ホールディングスの村田会長が、ヘリヤ商会とともにやりたいことをとても明確に見据えていらっしゃったんです。特に、世界各国への商流にも興味を持っていただき、顔合わせの段階で意気投合しました。

ヘリヤ商会はお茶を出発点とした会社ですが、長い歴史の中であらゆる場所・商材に関する商流を培ってきました。数ある引き出しの中から磐栄ホールディングスとリンクしたのが、「一次産業」というキーワードです。磐栄ホールディングスは物流からスタートした会社ですが、すでにレタスや日本酒の製造販売を展開するなど一次産業に関心をお持ちで、中でも特にオリーブオイルの製造には強い思い入れを感じました。

そこで、数年前に静岡県内の農家から相談を受けて開拓したイタリア産オリーブオイルの買い付けルートのお話をしました。天候不順や山火事などがあって取引はストップしていたのですが、とても品質の良いオリーブオイルでした。すると村田会長は、自社栽培のオリーブが育つまで輸入を再開してほしいとおっしゃってくださいました。

ヘリヤ商会と磐栄ホールディングスがそれぞれのやり方で取り組んでいたオリーブオイルというテーマが合致し、意気投合するきっかけになったのです。この冬から輸入を再スタートするので、新たなブランドとして確立していければと思っています。

かつては廃業を考えていたとは思えないほど、ビジネスに対して積極的な気持ちを取り戻せたのですね。

谷本: M&Aを行う前は、この年齢から新しいことをやろうという気分になれなかったし、すでに取り組んでいる事業で目一杯でした。しかし自分よりも若い世代の会社とパートナーシップを組めたことで、なにか面白いことをやれそうだという気分になれたんです。世界中にアンテナを張っているから、アイディアはどんどん浮かびます。それを一緒に実行してくれる人たちがいることは、とても心強いです。

M&Aで会社を譲り渡したら早々に引退するつもりでしたが、最低でも70歳まで、あと5年は働くつもりでいますよ。まずはオリーブオイルの事業を成功させたいですね。これまでもお茶だけにこだわってやってきたわけではありません。いいと思うものはどんどん海外に出し、輸入もして、多くの人に知って頂くキッカケを作りたいです。

長く生き残っていくためにはどんどん新しいことをやって行かなければいけないのは、長年続くヘリヤ商会だからこそ知っていることです。引き継ぎは磐栄ホールディングスがいろいろとコーディネートしてくださっています。商社の仕事は人とのコネクションが肝心なので、引き継ぐのが難しい事業だったりもするんです。私もやりたいことがまだまだたくさんあるので、引き継ぎは焦らずじっくり進めて行きたいです。