Consulting Service経営課題解決支援・事業計画策定支援コンサルティング事例

事業承継は筋書き通りに進まないのが当然。
二代目社長が手探りで見つけた経営者への道
左:社長 志村拓也様 右:会長 志村幹彦様
企業情報 

株式会社丸玄工芸

代表者名: 志村拓也様

事業内容: 仏壇・仏具・宗教用具の販売、小売。
仏教美術工芸品の販売。

静岡県静岡市で仏壇などの販売を行う丸玄工芸は、2021年に親族内承継で二代目社長へと引き継がれました。静銀経営コンサルティング(以下SMC)は2019年よりコンサルティングを開始し、事業計画の立案や事業承継にまつわるサポートを実施。リアルな目線から経緯をお話しいただき、事業承継において重要なこととはなにか、ヒントとなるエピソードをいただきました。

社内のボランチとして弱点を補い続けてきた

社長が丸玄工芸に就職されたのは13年前とのことですが、その経緯をお教えいただけますでしょうか。

志村拓也社長(以下社長): 当社はお仏壇の輸入・製造・販売を中心に行っており、会長である志村幹彦が創業いたしました。私は新卒でイベント系の会社に勤め、その後独立。従業員を雇えるようにはなったものの、会社経営の難しさを思い知ることがたびたびありました。

そんな時に、父の会社は一体どうやって成り立っているのだろうと興味が沸いたのです。当時の社員からも、「戻ってこないのか?」とお声がけいただいていたこともあって、会社を継ぐことを前提に丸玄工芸に入社しました。

入社してからはどのような役割を担われていたのでしょうか。

社長: 私は入社してからずっと、サッカーでいうボランチのような役割を全うしようと考えておりました。どこかで問題が起こったら対応し、フォローが必要そうだったら手助けをする。会社の弱点を見つけたらそこを改善するように持ちかけることもありました。しかしそれはある意味、人の仕事に口を出すということです。丸玄工芸には、担当者が責任を持ち自ら考えて動く代わりに、任せたからには口出しはしないという暗黙のルールがありました。その中で私からの指摘は、あまりよく受け取られませんでした。

それに今振り返れば、伝え方にも問題がありました。一方的に「こうして欲しい」と思ったり、高圧的に求めたりするのでは、相手に何かをしてもらうことはできません。徐々に私もそのことを理解し、伝え方を変えるようにしていきました。13年かけて、そういったことを学ばせてもらえたのは大きかったと思います。

実際に事業承継が行われたタイミングについて教えてください。

志村幹彦会長(以下会長): 引き継ぎのタイミングについて、明確な意識は持っていませんでした。いつかは引き継ごうと思っていたけれど、物事はお芝居のような筋書き通りに進みません。そういうのは巡り合わせだと思っています。そういう意味で、私の怪我はきっかけの一つでした。

社長: 会長が怪我をして入院を余儀なくされた際、社長業務を代行することになりました。その流れで自然と引き継がれていったように思います。

会長: そもそも筋書き通りに引き継ぎをする人は、経営者に向いていないのだと思います。自分の力で考え、行動することができるようになった時、自然と引き継がれているものでしょう。拓也社長が幼い頃から、自主性を尊重する接し方をしてきました。

会社の弱点を見つけては改善を試みていたということですが、どのようなポイントに着眼されていたのでしょうか?

社長: 根本的に改善が必要だったのは、「自分の仕事ではない」という他責思考でした。例えばゴミが落ちていれば、近くにいる人は気づくでしょう。でも自分が落としたゴミではないからと、誰も拾わないのです。そのような、気づいているけれど手を出さない問題が色々とありました。

私は「出したら片付けてくださいね」「ここ開けっぱなしですよ」と、細かい指摘をし続けていたのですが、最初はあまり受け入れてもらえている感覚がなくて。徐々に受け取る側の気持ちが変化したのか、最近は行動していただけるようになってきたと思います。

社長自身の振る舞いにも、変化があったためでしょうか?

社長: まだまだ上手くはできませんが、昔ほど気張らなくなったと感じます。この間ある社員と、「動機とチャンス」の話をしました。人というのは動機とチャンスが揃った時に動くけれど、周囲の人間は本人の動機を操作することはできない。でもチャンスを与えることはできるという話です。会社におけるチャンスとは、行動を評価する制度が用意されていたり、きちんとした情報提供ができている状態だと考えています。私は人の動機を変える必要はなくて、やる気になってくれた時に動けるようなチャンスをたくさん揃えておくだけでいいのだと学びました。それによって心持ちが楽になったと思います。最近では、決して「社長」と呼んでくれなかった人が「社長」と呼んでくれるようになったり、嬉しい出来事もありました。

会社のあるべき姿を定めるため、社員の本音に迫った

SMCとのお付き合いを初めていただいたきっかけについてお話しいただけますでしょうか。

会長: 静岡銀行とは1977年(昭和52年)よりお取引がありますが、特に近年はお取り引き額が大きくなり、資金繰りのご相談などをさせていただいておりました。そこで支店長からSMCをご紹介いただいたんです。まずはSMCから、どのようなことに取り組んでいただけるのか提案がありました。

当時の丸玄工芸は借入形態の変更を検討していたタイミングでした。会社は黒字でしたが、黒字幅が徐々に減少しているという中、今後の対策を各銀行に説明する必要があったのです。事業計画としてまとめるために、SMCに入っていただくという契約でした。

会長: 事業計画を立てていただく上で、まずは会社の方向を明確にする必要がありました。息子への事業承継を見据えていましたので、創業社長である私が離れてから、社員とどのような会社を作っていくかの指針となる「あるべき姿」が必要だったのです。そこで最初に取り組んでいただいたのが、社員へのモラールサーベイ。会社への期待や、長年蓄積された想いなどを、社外の人間であるSMC堀さんに話していただいたんです。それによって社員の本音が知れたし、経営陣がぼんやりと描いていた目標と現状の乖離を把握することもできました。具体的なアクションプランの策定に大変役立ったと思います。

社長: 実の所、最初はコンサルティング会社に対していいイメージを持っていなかったんです。以前契約していたコンサルティング会社があまり向き合ってくれないタイプで、資料を作って提出するのみでした。そういうコンサルティングなら必要ないと思っていたので、契約をしたという話を事後報告で聞いた時は、どうお付き合いしていくべきか明確に見えていなかったのです。

ですからはじめは会長とSMCが中心となって事業計画を作っていました。しかし回ってくる資料に目を通すたび、「この数値はどうやって算出しているんだろう?」「自分が年間計画を立てるときはどうやって考えるべきだろう?」と、疑問や興味が沸くように。その都度SMCの堀さんにメールで質問をさせてもらっていました。堀さんはどんなことにも必ず情報を返してくださるので、徐々に信頼を感じていきました。

実際に引き継いでみて、感じることを教えてください。

社長: 経営者とは何かを理解しようとしていますが、日進月歩という具合です。小さな一歩ではありますが、目線の変化や振る舞い方を考えるようになりました。例えば会議の場で、とある提案を行ったとします。すると声の大きな社員は反発するし、そうでない人は黙り込んでしまいます。私はそういう場面で必ず言い返してしまうんです。すると言葉の重みがなくなり、権威が下がります。会長はそういう時、黙って立ち去るんです。それは議論を放棄するように見えるかもしれないけれど、不要なやりとりを避けることができます。会社のトップであるという自覚を持った時、会長の振る舞いの理由がわかるようになったのです。

会社を補い整え、もっと働きやすい環境へ

事業計画はどのように実行していらっしゃいますか?

社長: 最初に堀さんのサポートを得ながらいくつかの改善を行いました。例えば仕入の見直しでは取引先数を絞り、営業では不要な出張を削減してコストダウンを実現。複雑だった外為取引をシンプルに改善して手数料の削減も実行していただきました。

また、各銀行との状況共有の場で、私に代わって説明する役割を担ってくれたのは助かりました。会長の業務を徐々に引き継ぐ中で、銀行に対して同じ説明を何度もするのは、時間が惜しいと感じます。本業に専念できるよう、形式的なことを率先して引き受けてくださったのには感謝しています。堀さんはそういったフレキシブルな動きをたくさんしてくださいました。

現在も堀さんからいただいた数値目標を参考にしながら、会社の改善に努めております。ただし計画通りに全てを進めるというよりは、リアルタイムに感じる問題に目を向けることを意識しています。

例えば最近新しくスタートした「コンテナポイント」という制度は社員の生の声を反映 して作ったものです。コンテナが届いた時の搬入作業はなるべく多い人員でおこなった方がいいのですが、全員が平等に参加していないというクレームが上がりました。そこで、手伝ってくれた人にはポイントをつけ、賞与に反映するという制度を作ったのです。ポイントをつける係も任命しました。少しでもストレスがない環境を作れたらいいなと思います。

先ほどおっしゃっていた、チャンスをたくさん用意しておく活動の一つですね。今後はどのようなことを実行していきたいとお考えですか?

社長: 当社の弱みの一つに、中間管理職がいないことが考えられます。これまでは会長の方針のもと、それぞれが責任を持って動くというやり方で歩んできました。暗黙の了解で誰かが負担してくれていた部分もあると思います。しかしこれからは、担ってくれる人に明確に役割をお伝えしたいと思っています。社員全員に対して指揮系統が行き渡るには、一人一人にしっかりと向き合い話を聞くことが求められます。しかし私一人で、全員と向き合うことは難しいと感じています。最近も1on1を実施したのですが、1日に5人の話を聞くのが精一杯でした。何名かに中間管理職の役割をお任せし、社長の役割を分担していただければありがたいです。

会長: 私は社長に会社を任せたので、これからは見守っていきたいです。時間に余裕のある役員がいる会社は、いい会社だと考えています。

社長: それくらい体力のある会社だという現れでもありますが、何か問題があった時、ボランチの数は多ければ多いほどいいですからね。社長という役割はいただいていますが、これまでと変わらないスタンスで皆が働きやすい状況のサポートに徹したいと思います。